4.First Lie
絶望の中でふと思った。
やはり、莉子も死んでしまったのだろうか。と
そんな現実受け止めたくなくて、でも足が自然と莉子の家に向かった。
家の前に来ると、自分の家と似た生臭いようなにおいがした。そのにおいから、これから見せられるのであろう未来が浮かぶ。
意を決し鍵が開いたままの玄関を入っていった。人の家に入る。不法侵入ではないかと少し心配になったが気にする必要はないようだ。この事態であれば誰も咎めないだろう。
一通り、莉子の家を見てまわり再び現実を思い知らされた。2回目でダメージは軽減されていたが、それにしても、やっぱり……
ふと、思った。
警察にまだ知らせてないじゃないか、と。
急いで110番に電話をかける。
回線が混んでいるらしくなかなか繋がらなかった。切って、しばらく経ってまた掛けなおしてこれを何回か繰り返し、やっと繋がったのは最初に掛けた30分後だった。そこまで混む要素ある?気になって警察のホームページを確認した。
すると、現在回線が混みあっているため、時間をずらしての問い合わせを願います、とあった。しかしラッキーにも繋がったため、声を張った。
美咲 あの……人が死んでます!
警察 どこですか?
美咲 遠藤です!遠藤莉子の家です!
警察 わかりました。その場に留まって待っててください
やけにすぐ切りたそうな口調だったので、回線が混みあっている理由は聞かなかった。
そこから、警察を1時間ほど待ち、事情をあれこれ話した。聞けば同様の事件が何件も起きているらしかった。
「いやー僕、実は警察のしたっぱでしてこんだけ事件が起きてるっていうのに、やっと、これで初出動なんですよ。」
「そうなんですか? でも、そういえば電話のときと違う人の声ですね。」
「はい。これあんま言えないんですけど、したっぱなりに情報収集してて。聞きます?」
「あぁ、無理はしないでいただきたいんですけど、出来ればお願いします。」
「分かりました。あの、実は昨夜から今朝にかけてこのような、一家全員が殺害される事件が多発していて、」
「実際何件くらい……なんですか?」
「これは……絶対言わないでくださいね。信じがたいとは思いますが全国の98%の宅で……」
「え、どういうこと、ですか。」
聞き間違えだと思った。
「その言葉通りです……」
「じゃあ、え、みんな死んだんですか」
「はい…」
「あっ、」
一瞬空間が歪んだ気がした。私の体を支えるしたっぱ警察がいなければ、そのまま倒れてもう起き上がれなくなっていた気がした。
ダメです!あなたがショックを受けてしまうのではこの情報は教えられません!
その言葉がハッと、失いかけた意識を戻してくれた。
そうだ、こんなことでさえ絶望しちゃいけないんだ。それがこの、今の、世界なんだ。
「すみません、つい意識が……」
「いえ、気になさらず。そういえば、東雲 さんですよね?あなたの家も被害を受け たはずですが」
「あ、はい。両親は一階のリビングで、、」
「あなたは?」
「私は…屋根の上で寝てしまって」
「屋根の上って…詳しい話はまたあとで聞きますけど、どうして?」
「私、よく屋根の上に行くんです。それで 昨夜も。私、自分勝手ですよね。両親のことすら気づいてあげられないなんて…」
「違います、あなたは悪くないです。この世界が悪いんです。」
「でも…」
「やめてください!俺の家族も死んだんです。その時、俺は悠長に外でふらふらしてて。自分が情けないです……
けど!そんなこと抜かしている場合じゃ ないんです。」
思わず黙った。
そうだ。変わり果てたこの世界で私たちみたいに生きている人なんてほんの一握りしかいない。家族や友達がどうとかの前に自分が生きてることに感謝しなきゃ。
そんなこと分かってるんだよ。
けど……
こんなの…死んだ方がよかった、
思ったことが驚くほど素直に口から出てきた。
警察はこんなこと言わせるつもりじゃなかっただろうに。沈黙がしばらく続いた。
自分で作った沈黙だというのに、気まずくなった。
それから30分くらい経って警察が始めた。
なぜか口調がため口に変わっていたが。
「そういえば東雲さん、下の名前は?」
「美咲です。」
「東雲美咲ね。今は…中学生かな?」
「いえ、一応高1です。すみません、背が低くて。」
「いやいや、何言ってるの。間違えたこっちが悪かったね。いや、俺はさ、東雲さん意外と俺と年齢近いんだなって。」
「警察ならさすがに25歳はいってますよね?それ、近いっていいます?」
「あー、いろいろと嘘なんだ。」
「嘘!?」
「まず、俺は警察じゃない。一般人なんだ。で、18歳。」
「どうして、嘘を?」
「いや、警察じゃなきゃ怪しまれるだろ、このご時世。きっと本当の警察に連絡したんでしょ?」
「え…はい。」
「どうせ、来ないと思うよ。なんせ、何千万件っていうレベルだからね。」
「じゃあ、どうすればいいんですか…」
「それは俺には分からない。じゃあな、俺は行かなきゃなんだ。」
そう言って男は去っていこうとした。ほんとに謎めいたタイミングで話を切り上げてきたことに疑問を覚える。
この会話の中で男の口調は目まぐるしくラフなものに変わっていったが自然とそれを受け入れる自分がいたことにも少し驚く。
なんだ、あの人…
警察なんてどうせ来ないよ、あの言葉が胸に響いた。そもそもあの男はどこへ行くというのだろうか。
私は心の奥であの男を求めている気がした。
ここで、離れたら私はどうなる?
知らない人についていくほど私は非常識ではない。けど、非常識な世界の中で常識に囚われる必要はあるのか。
気づけば、男を追いかけていた。
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