1.Last Happy Birthday
それは、2020年3月28日のことだった。
その日16回目の誕生日を迎えた私はそれを祝うために集まってくれていた莉子、葵、真奈と、いつもじゃありえないくらい豪勢な食事を囲んでひたすら駄弁っていた。
「美咲の誕生日ってほんと、年度末ギリギリだよねー」
と、莉子が毎年の話題を今日も出してくれる
「そうなんだよー、ごめんね毎年こんな時期になっちゃって」
「いやいや、冗談のつもりだってば、誕生日がいつだろうと私は美咲に押し掛けに行くし」
「それはそれでちょっと怖いんだけど」
この流れもいつも通り。小5の頃から続くこの会はいつでも、誕生日の遅さから話が始まって少しずつ皆の舌が温まっていく
「そういえばさ、最近ブラジル地方で新型ウイルスが広がってるんだって。なんでも致死率90%らしいよ」
葵が食事中にするようなものじゃないような話を始めた。これもまた、いつも通りっちゃ
いつも通り。他の三人は、また、始まったよと言わんばかりの、でも少しの興味を含ませた顔でその話に耳を傾けた。
「それでね、そのウイルスっていうのが厄介者って言われてて感染ルートが全く読めないんだって」
「もー誰も知らない話ばっかするよね、葵って」
真奈の最もなツッコミ。
「いや、大ニュースだよ?これ」
「そんなさあ日本に普通に、住んでる私たちでさえ知らない話、大ニュースなんかじゃないでしょ」
そうだそうだ、この時の誰もが真奈に賛同した。
「えー、うそー知ってるはずなんだけどなぁ」
今日はなぜだか歯切れの悪い葵がそっかぁと独りつぶやいてこの話は切り上げられた。
そこから後はただの一般的な話で盛り上がったことが記憶にある。
というのも、それより先は覚えが曖昧で頭が真っ白、いや真っ黒なのだ。
あらゆる出来事が脳裏で混みあっていて局所的なピックアップもできない。
あ~、ここが一番私の思い出したい大事な記憶なのに。
え、なんで覚えてないの? 自分に尋ねた。
そして嘆いた
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