2.Starting Nightmare
その誕生日会の次の日の朝、春休み中には珍しくニュースを見た。特に理由はなかったが、よく見ている早朝の番組より少し早く起きてしまったので、その暇潰しに。
最近はスマホもあるし、わざわざテレビをつけてニュースを見ることに価値はない。
かのNHKでやっていたニュースに目をとめて時間が過ぎるのを待った。
と、その瞬間、昨日の葵の歯切れ悪い表情を蘇えらせるようにテレビから何かが聞こえてきた。
「さて、次のニュースです。昨日からお伝えしていますように南米の特にブラジルの辺りで新型ウイルスが流行しています。......」
なんだ、ほんとの話だったんだ。
昨日の葵の話もあり、私はこのニュースだけは集中して聞いていた。
「ブラジルでは全国民のうち20%がこのウイルスに感染していて、その中の9割の方が亡くなっているそうです。加えて、感染力が非常に強くインフルエンザなどの比較的感染力の高いものも超えるほどとのことです。」
葵の言っていたことは全て事実だった。
時にはまともなこと言うんだ、なんて思う以前に全く別の感情が芽生えた。
え、もしかして、日本に来てる?
水際突破という不謹慎な想像をしてしまったとは思ったがこのニュースからは容易に想像できる。しかし、ニュースから聞こえた次のことばで大きな安堵が私を包んだ。
「しかし、このウイルスは専門家によるとブラジル系民族にのみ特別に感染するものだそうで、現地の日本人には1人も感染していないそうです。」
あーよかった、私たちには関係ないんだ。
自分さえよければいいのか、時に人はそう言うがそんなことを言う人間だって、自分が死に際だったらどうせ、自分を優先するだろう。私が思った感情は確かにブラジルの人々に寄り添えていないがこれも人間のもつ残酷さである。
その日は好きなテレビ番組に始まりずっと同じ局のテレビを見続けた。正直なところその記憶もない。ただ網膜にブルーライトを焼き付けただけだった。
夕飯も済み部屋に戻るが就寝にはまだ早い時間だった。眠いわけでもないので意志もなくベランダに出ることにする。
珍しく風がなかった。これでも一応風流なのかもしれないと思い、ただただその無風状態を味わい、やっぱり風流には遠いか、なんて自分にツッコむ。私の部屋のベランダからはあまりよい景色は見えないのでちょっとした裏ワザを使う。その裏ワザは、屋根に上ることだ。
誰にもバレないように1人考え事をするため発見した場所だが、数ヶ月前父に上ろうとしてるところを見られてしまった。
しかし、父は母にはそのことを言わないでくれていたので、母から女の子らしくしなさい、とかその他諸々、面倒な言及を食らうことはなかった。今日もそこで、お世話になる。
気づけばもう夜中の2時を回っていた。
...LINEの通知音
ん?莉子じゃん、こんな時間にわざわざどうしたんだろ。
莉子 ねえ、美咲!起きてる?葵の言ってたことってああいうことだったの!?
美咲 どうしたの、そんな急いだ感じで。起きてるけど。もしかしてウイルスのこと?
莉子 うん、そうそう!美咲の家、大丈夫?
美咲 大丈夫って、なんのこと?
莉子 なんか、私の家の前、変な人いる
美咲 は?何言ってんの?こんな時間に人が訪ねて来るわけ
莉子 いや、ほんとだって
莉子 待って待って、なんで?
美咲 どうした?
莉子 入ってきた、
美咲 え、ちょっとマジのやつなの?
莉子 私...ヤバいかも
美咲 大丈夫!?
美咲 返事してよー
美咲 そういう演技ほんと、よくない
美咲 あ、、、
莉子の返事はいくら経ってもなかった。
どうせ、寝ただけでしょ、そう思いたくて。
けど、あんな状況で寝ることなんてできないはずと思ってしまう、自分もいて。
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