第4話


穏やかな日差しが心地よい春の某日。

神殿の墓地にて、しめやかにひっそりと葬儀が執り行われていた。



葬儀を執り行う神官達の他には参列者はたったの2名。



一人は今にも死んでしまうのではないかというくらいに顔色も悪く、立っているのがやっとの状態に見えた。眉間に皺を寄せて、必死に泣くのを堪えている様子が窺える。



対するもう一人は、本当に葬儀に参列しているのかと思える雰囲気だった。

装いこそ黒のドレスだが、晴れやかな顔をしており今にも笑い出しそうに見えた。



その女性は男性の腕に絡みついた。

男性は即座に振り払う。

女性は膨れっ面をして詰め寄っていた。



「アベル様、もうこれくらいでいいではありせんか。さっさと終わらせて帰りましょうよ。もうアベル様は自由なのですよ。これからはマリーと一緒に楽しく過ごしましょうよ」



「マリー、静かにしてくれないか。帰りたければ帰れ。」


「もう、アベル様ったら。照れているのね?じゃあ、マリーは先に帰ります。

ところで、私の部屋はどこかしら?ああ、邸の方に聞けばいいわね。今日から住んでも構わないでしょ?」


「一体何の話しだ?」


「え~。ふふ。何って。サラ様が亡くなったから私と結婚できるでしょ~。だから…」


「マリー!」


一体マリーは何を言っている。

まだ考えが子供だからと今まで色々と目を瞑ってきたが、葬儀に結婚の話をするだと!



「マリー、この際はっきりと言っておく。今までは父の友人の娘として面倒を見てきた。だが、私はお前と結婚するつもりはない。父達が勝手に騒いでいるが、私は…もう誰とも結婚するつもりはない!」



サラ…

サラの棺は埋葬されようとしていた。地面に掘られた穴の中にゆっくりと降ろされていく。



「ちょっとアベル様それはどういう事!結婚するつもりはないって!そんな事許さない!マリーはどうなるの?マリーは伯爵夫人になるのに!」



昔から癇癪起こすことが多かったな。その度に宥めていたが。

別れの時に流石にうっとおしい。


「マリー!」


私はマリーを帰らせようと言葉を発する。


マリーは癇癪を起こして、サラの棺に八つ当たりしていた。

叩いたり蹴ったり、父の友人の娘とはいえそれは我慢の出来るものではなかった。


「何よ!死んでからも私の邪魔をするの!この魔女!あっさり死んでくれてほっとしてたのに! バカな女!」


神官達も慌てて宥めようと声をかけていた。


「うるさい!うるさい!放して!放してってば!私は伯爵夫人になるの!そうでしょアベル様!あなたの為に毒薬まで手に入れたんだから!すごいでしょ私。

あの女もあっさりと飲んでくれて。ははは!アベル様の婚約者だと名乗ったら死にそうな顔をしていたわ!いい気味!」



「なんだと!マリー、それはどういうことだ!」


私は勢い余りマリーの両肩を掴んだ。暴れるマリーは棺にぶつかって、その拍子に棺の蓋が外れた。


倒れたマリーが棺の縁を掴み立ち上がり、棺の中を覗く。


「ヒィ!」


悲鳴の後、倒れていた。


「おい、どうした、マリー?マリー。誰か、医者を。」



マリーは数人の神官により医務室へと運ばれて行った。


棺の蓋から覗くサラを見つめる。

薄く綺麗に化粧を施されたサラはまるで生きているようだった。眼鏡もない目を閉じたサラはまるでただ眠っているようだ。



ダメだ…サラ…



「埋葬は中止にしてくれ!」




私は氷魔法に優れていた。

サラの体を許されない事とは分かっていたが冷凍保存することにし、棺ごと邸へと連れ帰った。



美しいサラ…

これからは毎日あなたと一緒です



邸に氷の部屋と称した特別な部屋を用意した。



そこは可愛らしい女性好みの家具で統一されていた。本来サラが住み続ける予定の部屋だった。


ベッドに横たわるサラに毎日花を贈った。


使用人達は気味悪がり辞めていったものもいる。


マリーは亡くなったそうだ。倒れたあの日に…


死因は不明。まるで魂を抜かれたような状態だったという。



これから私は愛するサラを守っていく







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