第9話 エミリオの告白

「上がって。」


「ここは、エミリオの家?」


私はエミリオに手を繋がれて、家に連れてこられていた。



「連れ込むようで気が引けるけど、リナをほっとけなくて。お茶ぐらいしかないけど、そこに座ってて」


「お邪魔……します」


もう、何も考えられずに、言われるがままに倒れ込むように座る。



エミリオは、温かい紅茶をだしてくれた。


「どうぞ、熱いから気をつけて」


「━━ありがとう、いただきます」


コクンと頷き、紅茶を口に含む。

ほんの少しだけ、生き返った気がした。


「リナ、何かあった?

俺には話せない?」



エミリオは優しい。

本当は誰かに聞いて欲しい。

でも、それは単なる甘えに過ぎない。



「リナが言いたくないんだったら、もう聞かない。でも、落ち着くまでここにいて。本当に…死にそうな顔をしてるから。心配だから」


「どうしてそんなに優しいの? 私は、エミリオの思っているような人間じゃない!」



もう限界だった。胸の内に一人で抱え込むのも、つらくて、誰かに聞いてほしかった。ただの自分勝手な願望なのは分かってたけど…


一度口に出すと、後から後から気持ちが溢れ出して、もう止めることができなかった。


いつの間にか、エミリオに全てを打ち明けていた。


ルーカスと付き合っていたこと、


今日ルーカスが婚約したこと、


どうしようもなく辛い気持ちを……。



エミリオは、私が話し終えるまで、ただ黙って聞いてくれた。


時々 「そっか」

「つらかったね」と、慰めの言葉をかけてくれながら。


その一言を聞くと、自分でも驚くほど気持ちが救われた。


あぁ、私は、こんな風につらかったね、大変だったね、と、誰かに言ってほしかったんだ。


どうしようもなく孤独で寂しかったんだ。


エミリオは、私の話が一区切りしたのを見計らうと、真摯な姿勢で話し始める。




「リナ…ごめん‼︎」



エミリオは、私に軽く頭を下げる。


「エミリオ、何を謝っているの?」



「俺、ほんとは、ルーカスさんとリナが、付き合っていることを知ってたんだ。」



「え……?」


衝撃な告白に思わず絶句する。



「俺、リナのことが気になっていて、何度か食事に誘って、それで…


リナが、俺に気がないことは分かってたよ。あぁ、これは脈がないなぁ、って思っててさ。


でも、なかなか諦められなくて。


そんな時に、ルーカスさんに声をかけられたんだ。てっきり仕事の話かと思ってたら

違って。


あんなに真剣なルーカスさんを初めて見たよ。だから、驚いた。


ルーカスさん…

リナの事をどう思ってるのか、と、俺にしつこく尋ねてきたんだ。


いくらルーカスさんでも、プライベートな事を話す義理はないと思って。


そんなこと、興味本位に尋ねるなんて失礼だろって言い返したんだ。


でも、違ってて……。


ルーカスさん、なんか、すごく悩んでた。


自分は、どうしてもリナとこのまま付き合うことはできないって。


俺はなんだよそれって思ってさ。



俺の事も調べたとか言うから……なんか、怖いなと思って、立ち去ろうとしたんだけど。


リナのことを本気で大切にしてくれるなら、どうか、リナを支えてくれないかって頭を下げたんだ。


ビックリしてさ、何度も理由を聞いたんだけど、答えられないって。


俺の気持ちよりも、そういうことはリナの気持ちも大事だろって言ったんだけど。


リナを大切にして欲しいの一点張りでさ、話にならなくて。


でも、俺もリナのこと諦められなかったし、そんなこと、ルーカスさんに頼まれなくても大事にする!って突っぱねたんだ。




そしたらルーカスさん…


あの綺麗なルーカスさんの顔が、歪んでた。


とても、苦しそうだった……。


この事は、リナには絶対に言わないでくれって

口止めされていたんだ。



リナ…、

リナの中には、まだルーカスさんへの気持ちが残ってるんだろ?


ルーカスさんとリナの間に、何があったのか知らない。


でも、

俺は、こんなだけど、

もしも、もしも、少しでも俺のこと気になってくれるなら、


うちへ来ないか?」



「え?」


衝撃的な告白に、頭が混乱していた。


言われた意味が分からず、自分の気持ちなど考えられずに的外れなことを言っていた。


「私…契約が…終身雇用で…」


自分でも、何を口走っているのかと驚いたほど。


「あぁ、違約金か。

それは、俺がなんとかする。

リナも、このままあそこにいるのはつらいんじゃないか?」


「私…

エミリオの所で雇ってもらえるの?」


エミリオは真っ赤になりながら言葉を続ける


「あぁ、言葉が足りなかったよな。そうじゃなくてっ、


リナ、好きだ! その、うちへ来ないかって言うのは、一緒になろう。


結婚しよう、リナ


ダメ…かな


少しづつでも、リナが俺のこと好きになってくれるよう努力する。無理してルーカスさんのこと忘れなくてもいい。だから…

リナ?」



泣いてはだめ

止まって、お願い止まって、

と何度も唱えるのに身体は言う事を聞いてはくれない。

後から後から涙が溢れてきて、

自分ではどうしようもなくて、

心の中がぐちゃぐちゃだった。


エミリオはそんな私を見てオロオロしていた。


ぎこちなく私を抱きしめてくれて、

そっと優しく背中を撫でてくれる。


私はエミリオの胸に顔を埋めて、子供のように泣きじゃくった。


私はいったい今までルーカスの何を見てきたのだろう?


エミリオから聞いた内容によれば、ルーカスは

何か理由があって別れを決心したみたいだ。


浮気が原因じゃない


私が原因じゃない


そのことが嬉しいのか、悲しいのかも分からない

ただ、ルーカスは私との別れを選んだ


私の気持ちなど一切聞いてくれずに


その事実が重荷のようにのしかかる


もう…疲れた…



苦しい…寂しい…助けて


エミリオの優しさに甘えて、


エミリオにしがみつく



エミリオはこんな私を受け入れてくれる


この苦しみからもう逃れたい


エミリオの優しさが心地良くて、


ずっとこのままいたくて、私は━━。


そうして、そのまま私は、


エミリオと一緒に



朝まで過ごしていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る