第5話 大滝




 箕面みのお大滝。


 箕面の山にひっそりと、高さ十じょうにおよぶ崖から白く身をおどらせるその姿。

『日本の滝百選』のひとつに数えられるこのめいばくこそが、『たきみち』と称せられるこれまでの道の終着点で。

 この小旅行の目的地だった。


 あおい夕暮れに舞い降りる白い滝の周囲からは、まるで主演を引き立てるように、紅、金、緑色をした葉の大群が。

 うす暗いなかでさえも、その星形のかたちをいまだ光らせているかのようにも思えるのだった。


 滝の足もとによどむふちは、紅葉もみじたちの輝きとは対になるように青くしずかで。

 そのなかに積もって白く盛りあがった中洲は、なにかの儀式の舞台ででもあるかのようで、この景色の神々しさを、いやがおうにも高めていた。




 ――― そうだった。


 ――― 数年前にみた景色は、ちょうど、こんな風だった。




 この場所へ来ようかとふと思い立った、そのきっかけのような思いが。

 ごつごつとした崖、青い滝壺と白い中洲で形づくられたこの舞台で、滝と紅葉がくりひろげる舞踏のなかから、おぼろげに形になってきたような、そんな気がした。


 とっくに山のかなたへと消えて、薄れゆく日の光を、あえて頭から追い出して、ずっとその舞台を見ていた。




 それでも、山のただ中で、滝の流れと紅葉に見入っていればこそ、否応なしに、夜の迫ってくる足音は意識される。

 もともと、思いつきのこの道のりだ。あまり遅くなるわけにもゆかなくて。

 濃くなる闇へと消えゆく景色に、心のなかで別れをつげて。

 元きた道へと足を返した。


 もはやすっかり夜闇に支配された山道へと。




 とは言っても、道はしっかり整備されていて、あちらこちらに証明が設置されている。

 行き以上に黙りこくった木々たちも、その間をうめる黒い闇も、とくに怖がるものでもなかった。

 初冬の冷えにすこし身をふるわせながら、積もった落ち葉を踏みしだき、覚えある道筋をさかさまに歩んでゆく。


 やがて、目の前にスポットライトが浮かびあがった。

 山道のなか、ひときわ明るく電灯で照らされた地点がある。その場所が、暗闇のなかにぽっかりと照らし出されていたのだ。

 さきほどの滝とおもむきのちがう、ちいさな舞台。


 そこに、やつらはいた。


 

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