第3話 紅葉




 平日の昼下がり。ごった返すというほどではなかったが。


 やはり紅葉もみじの名所だけはある。

 駅は山すそにもかかわらず、見物客を吞みこめるほどに広びろとして。

 駅前の広場から山へとむかう、ゆるやかなそののぼざかには、それなりの人が行き来していた。




 道のわきには小さくて、それそのものがレトロな風情をまとっている土産みやげもの屋がならんでいて。種々のアクセサリーや置き物、古物らしきものも並べて売っている。

 とくに目を引くは、鮮烈な紅色をはなつ、湯呑みや小皿、動物たち。その名も『箕面みのおやき』といって、紅葉のいろをイメージした焼き物たち。


 食べ物も、饅頭から果物から、いろいろなものが店先をとおる人々を呼び止めて。

 ひときわ目立っているものは、紅葉のかたちをそのまま残した『もみじの天ぷら』。

 ほんものの葉っぱをとって一年間の塩漬けにして、砂糖をまぜたころもをつけて揚げたもの。

 天ぷらよりは甘いせんべいといったそれは、ドーナツじみた風味もあって、内側には繊維がのこり、独特の味わいがする。




 そんなものを眺めながら歩いてゆくと、巨塔のようなエレベーターを擁している観光ホテルにさしかかり。

 ちょうどそこから道には箕面川がそい、そして周囲を紅葉たちが取り巻きはじめ、色づいた姿をさらして踊り始める。


 初冬に足を踏みいれてもいまだ緑を残す森、そのむらや幹がはらむ黒い影。それを背景に、巨大な赤い花のようにその身をひろげる紅葉たち。

 川のせせらぎがかすかな飛沫しぶきを立てながらその足元をくねり行き。

 アクセントのように、そこかしこに古びた姿をあらわす旅館やしょくどころも、すっかりその景色のなかに溶け込んで。


 静かにしてあざやかな箕面の秋へと、本格的に迎え入れられたのだった。

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