第2話 箕面




 みの

 大阪府の北に位置する、48キロ平方ほどの広さの市である。


 阪神平野の北のはし、ほくせつ山地へ入りこんでゆくこの町は、その半ばが山と森におおわれている。

 すぐ南に人口1200万人の都市圏が広がっているのを忘れるほどに静かなるこの山々は、しかし実際は、大阪都市圏の周縁をなしており。

 十一月末ごろから十二月初頭にかけては、紅葉の名所として結構なにぎわい見せる行楽地である。


 ときは十二月に踏みこんだばかり、紅葉もみじの季節のまさに末ごろ。

 高校のころ、一度だけ行ったことのある、色づく木々に取り囲まれたあの山道を、歩いてみたくなったのだ。


 とりあえず、最寄り駅となるはんきゅう電鉄のちいさな駅へと足をすすめた。




 阪急電鉄。

 近畿地方の中央部、いわゆるけいはんしん地域を網羅しているローカル線のひとつである。

マルーンカラー』と通称される、実際には小豆あずき色にちかい車体をシンボルとする鉄道は、阪神平野一帯ではおおむね山の手寄りをはしり、近代に開発された阪神地方の郊外住宅地帯とふかい関りがある。

 たからづか歌劇団、世界初のターミナルデパートとも言われる阪急百貨店など、歴史的な事業を展開してきた路線は、独特のどこか風雅な雰囲気をいまもなお保っている。




 とくに、大阪方面から北北西へとのびる宝塚線。その途中から北東へと枝分かれして箕面をめざすちいさな支線の起点となるいしばし駅 ――― 令和元年に石橋はんだいまえ駅と改称された ――― は、阪急でも最古の駅のひとつだけあって。

 駅のつくりがどことなく古めかしい雰囲気を帯びて、とくに各ホームをつなぐ地下道は妙にがっしり堂々とした構造で、使われなくなり立ち入り禁止とされた暗い通路まであって、迷宮じみてものものしい。


 そこを抜けて東側のホームへ出ると、北の山へむかう電車が、船のごとくに待っていて。


 先頭車両のいちばん前の座席にすわると、運転席の窓までとおして、郊外からさらに外へとはしる車両のそのかなた。

 冬の始めのに照らされて、色づく山が盛りあがってくるのが見えてきた。

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