2話目 タカシとアカリの焼きそばパン

 キーンコーンカーンコーン

「きりーつ、れーい」


 4時限目の終わりを告げるチャイムと同時に、待ちかねた日直の号令が掛かる。

 ”○○ページは覚えとけよ”と言いながら教材を片付ける教師を尻目に、皆の心は昼飯100%だ。○○ページなんか聞いちゃいない。弁当組はいいだろうが、俺は購買派。急がねば!!


「タカシくん購買行くの?じゃ私のも!お願い!!」

「分かった!焼きそばパンな!」


 アカリが声を掛けてくる。幼稚園から高校まで一緒の幼馴染、焼きそばパンを買わされるのはいつものことだ。まぁ、その分おばさんがご馳走してくれるから全然構わないんだけど。


 昼の購買部はいつも人だかり。その中でも焼きそばパンは人気で競争率が高い。ちらっと見えた残りは2つ、やばいな。


「すいません!焼きそばパンをふた」

「これ!焼きそばパン!」


 横にいた男子が素早く焼きそばパンを手に取る。言うより早く手を出した方が良かったか、ひとつをゲットし損ねた!


「あ、焼きそばパンと、えっとじゃあ、コーンマヨにカレーパン。それとコーヒー牛乳2本」


 飢えた高校生は気が立っている。グズグズ選んでる間はないのだ。

 教室に帰るとアカリが待っていた。


「ほれ、焼きそばパンとコーヒー牛乳、ちゃんとおばさんに言っとけよ?優しいタカシ君が買ってくれたって」

「うんうん、分かったぞ。で、タカシくんはコーンマヨとカレー?焼きそばパンなかったんだ」

「ああ、お前いっつも焼きそばパンだろ?俺も好きだけどさ、要するにみんな好きなんだって」

「ふぅ~ん、好きなんだ。じゃさ!コーンマヨパン半分と焼きそばパン半分で、どう?」

「お!いいねそれ!半分こな!!」

「じゃあね、ちょっと待ってよ~」

「おろ、ちょっと待て、手で千切るのか?焼きそばパンを?」

「え?そうよ?」

「それじゃ焼きそばがビロ~ンってなるじゃん。ちょっと席について半分食おうぜ!で、交換な!焼きそばパンとコーンマヨパン」

「え?え?うん、いいけど」

「ほい、コーンマヨね」

 俺はアカリが友達と食べている席に行って、半分になったコーンマヨパンを手渡した。

「うん、じゃ、はい」

 アカリが俺に渡してくれたのは、ほんのひと口だけかじった焼きそばパンだった。

「あれ?なんだこれ、ぜんぜん食べてないじゃん。しょうがないなぁ、では、これも付けてあげよう」

 優しい俺は手つかずのカレーパンを差し出した。

「うん、ありがと」

 育ち盛りの高校生は腹がすく、それは男子も女子も同じなのだ。

「おう!どういたしまして!」


 席に戻る俺の後ろで、なぜかアカリの友達の歓声が上がっていた。



「え~?そんなこと、あった?」

「あったよ、あったあった。あの時はなに?なんで焼きそばパン食べてなかったのさ」

「忘れたよそんなこと、おなかいっぱいだったんじゃない?」

「高校生の女子が?男子の前で恥ずかしかったんじゃないの?」

「もう!そんなことよりさ、焼きそばパンでしょ?焼きそばが少しと食パンが1枚あるから、焼きそばパンつくろ?食べるでしょ?」

「焼きそばって昨日の夜たくさん作ったヤツの残り?ちょっとしかないでしょ。それに食パン1枚でどうやって作るのさ。半分に折ったって食べにくいでしょ?焼きそばがビロ~ンってなるから」

「えへへ、それがならないのだよ」

「へぇ」

「まぁちょっと待ちたまえ」


 アカリはそう言うとキッチンに立った。


-焼きそばはレンジでチン、か、食パンはトーストして、ん?


「こうやってね、トーストを半分に切ってね、で、包丁を耳まで入れて袋状にして」


 ほど良く焼けたトーストはまるでお稲荷さんのような袋にされ、焼きそばを詰められた。


「ほらできた!少しの焼きそばも結構ボリューム出るでしょ?」

「ほんとだ、それに食パン1枚でふたつできるんだなぁ」

「そうそう、半分食べて渡す、なんてことしなくていいのよ?」

「なにそれ、皮肉?」

「いいじゃん、ほら、食べよ?」


 トーストは香ばしく、焼きそばも食べやすい。


「うん、おいしい。それに焼きそばがこぼれないのがいいね」

「でしょ?だからね、半分食べて渡す、なんてことしなくていいの」

「これおいしいし、量もちょうどいいや。また作ってね!」


 タカシは私の言うことなんて、耳に入ってないみたい。

 でもあのとき、おなかいっぱいだった訳じゃないのよ。

 だって、半分も食べられるわけないじゃない。

 タカシにあげる焼きそばパン。


 いっぱいだったのは、私の胸なんだから。


 ふふ。




つづく

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ふたりのレシピ ひゃくねこ @hyakunekonokakimono

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