ふたりのレシピ

ひゃくねこ

1話目 アカリのお好み焼き

「出来た~!これ、フライパンで焼いたよ~、タカシ!食べよ!」

「おぉ、キレイに焼けてる!でもフライパンで焼いたって、玉子も乗ってるのに、どうやって焼いたの?」

「え?それはねぇ、まずお好み焼きを両面焼くじゃん?で、それを皿に取って、フライパンに油を敷きなおして目玉焼き焼いて、そこにお好み焼きをそ~っと被せる、って感じ?上手でしょ?」

「うん、じょうず~!それにお好み焼きって家で焼くとべちゃってしたりするよな?これ、ふんわりカリッと焼けてる!」

「えへへ、でしょ?これはねぇ、粉が違うのだよ、粉が」

「へぇ、高級お好み焼き粉、とか?」

「ううん、これね、タコ焼き粉なんだ」

「え?タコ焼きの粉?」

「うんうん!そう!タコ焼きの粉ってさ、もともとカリッとふわっと焼けるように調合されてて、味もついてんのね。お好み焼き粉もおんなじなんだけど、よりカリッとふんわり焼けるのは、タコ焼き粉なんだな~」

「へぇ、意外~、そうなんだね~」

「でもね、本当のコツはね、生地とキャベツを混ぜたら、すぐに焼く!ってとこなんだ!」

「ふぅ~ん、なんで?」

「それはねぇ、生地とキャベツを混ぜて置いちゃうと、キャベツから水分がでるでしょ?あれがね、べちゃってする原因なのよ!」

「おぉ、こだわってるねぇ、将来はもう、お好み焼き屋さん、やっちゃう?」

「え?やらな~い。だいたいタカシさ、1枚600円とか700円のお好み焼き、1日何枚焼けば儲かると思ってるの」

「ちぇ!冗談に決まってるじゃん!もう~アカリは現実的だなぁ。でさ、現実的ついでに聞くんだけど、なんでこんな風に切り分けたの?」

「え?切り分け?だって、こんな風に切り分けた方が、食べやすいんじゃない?」

「え~?食べやすくはないよ?これ、ピザの切り分け方じゃない?」

「うん、そうだよ?なんで?悪いの?」

「う~ん、悪くはないんだけどぉ、お好み焼きの上の具材とかソースとかマヨとかが、ビロ~ンってなっちゃうなぁ~とか?」

「あぁ、ホントだね、たしかに!でもさ、それはピザだっておんなじだし、これならみんなが同じように食べられるでしょ?真ん中から端っこまでさ、平等じゃない?」

「ん~平等かぁ、そうなのかなぁ~、ピザだといいんだけどなぁ~」

「そっかぁ、じゃ、ちょっと待っててね?」



「お待たせ」

「いえいえお気づかいなく」

「じゃさ、タカシは普通の真四角っぽい切り分け方がいいわけ?」

「うん!あれってさ、とっても食べやすいしさ!真ん中の四角いのがとっても美味いでしょ?」

「わ~!タカシってもしかして、お好み焼きの真ん中だけ食べる人?うわ~、信じらんない」

「え?そんなことするわけないじゃん!もしお好み焼きの真ん中だけ食べる人がいたら、オレ、友達やめる!!」

「うんうん、私もそう思う!美味しいとこだけ独り占めなんて、私はだめ!友達以前の問題だわ。でも、一回は言ってあげるかも」

「え?なんて?」

「ん?ピザ風に切り分ける?って!」

「おやまぁ、アカリ君、それ、解決になってないよ?でも・・」

「でも?」


「アカリがそういう人で、良かった」


「え?え?そういう人って、なに?」

「ん~、まぁそういう人はそういう人ってこと!」



「え?今日のお昼、お好み焼き焼くの?じゃさ!エビとかイカとか入れて、ミックス玉にしよ?」

「ん、い~よ~、ミックス玉ね!やっぱこういう具材だと四角く切り分けるのがいいんだなぁ、ひとつにそれぞれ乗る具材が違うのが面白いしね!」

「うんうん、そうだよアカリ君、その通りだよ」


「ところでさ、むかしむか~し、中学んときかな、私んちでお昼にお好み焼き焼いたことあったじゃん?」

「アカリんちで?うんうん、あったあった!」

「あんときさ、お好み焼きをピザみたいに平等に切り分けるって、言ったでしょ?」

「うん、うん?あった?」

「あったよ!あった!でさ、あんとき平等に切り分けるって言う私の事『そういう人』って言ったよね?」

「言ったかなぁ、そんなこと」

「言ったの!でさ、私、分かったんだよね!そういう人の意味」

「ふぅん、どんな意味だったの?」

「それはねぇ、会社の後輩にいたんだ。お好み焼き真ん中だけ食べる人」

「え~!ホントにいるんだ!」

「うん、いたねぇ。でさ、ワタシ先輩だからさ、言ってあげたのよ。そこってみんな食べたいんだよね~、じゃ、ピザ風に切り分ける?って」

「そしたら?」

「そしたらその後輩ちゃん、そんなこと教えてもらったの初めてです、ありがとうございます!!って、めちゃ感謝されちゃってさ!あ~そうかぁ、あんときタカシが言ってた『そういう人』って、こういう人の事かぁって、分かっちゃったってことだよ、どうかねタカシ君」

「おぉ、それは素晴らしい先輩風ぶんぶん。でも、良かったんじゃない?いい先輩じゃん!その勢いで出世しろよ?アカリ君!」

「おう!!まかせてタカシ!ワタシは、なんかの女王様になるっ!!」



 ふぅ、美味かったな!アカリの焼いたお好み焼き。

 でもびっくりした、あんときのこと覚えてるなんて。

 で、それをずっと考えてたんだ。アカリって単純だなぁ、そういう人って、そんな意味じゃないのに。


 あのときさ、ピザ風に切り分けたお好み焼きに、また包丁入れて、食べやすくしてくれたよな?


 でもさ、あのときのアカリ、端っこばっかり食べてるんだよ。


 そういう人なんだよ。

 アカリはさ。


 あの頃、それに気付いたの、オレだけなんだよ?


 たはっ!照れるぜ!!




つづく

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