第9話 お♡ お♡
「おい。ざこおじ」
リリムはベッドの上にぽすんと座った。俺は所在なく部屋の真ん中で立ち尽くしている。
「リリムのストッキング脱がせなさい。命令です」
「俺は戦闘奴隷であって、使用人じゃない。自分で脱ぐんだな」
リリムは挑発的に足を組み替えた。深淵のパンツが俺の視線を吸い込んでいく。クソッ!
「ストッキングに触れたら、リリム好きなのがバレるのが怖いんでしょ。だからできないんだ。ざっこぉ〜」
「違うが。断じて違うが」
「ならや〜れ。やってみろ♡ 証明してみろ♡ ざこおじじゃないって証明しろ♡」
クソッ。舐めやがって。
リリムの足の前に跪いた。祈りを唱える。俺はロリコンではない。俺はロリコンではない。俺はロリコンではない。
そのすべやかな肌に触れる。指が深く沈み込んだ。気づいたら俺の手はにぎにぎと太ももを揉んでいた。や、やわい。
「おい♡ おじ♡ 揉むな♡ ストッキングを脱がせなさい♡ 脳内ピンク色だからって命令を間違えるな♡」
頭の中の冷静な俺が言う。「なぜ、なぜ俺はこうもたやすく挑発に乗ってしまったのか」。もっとしっかり断ればよかったはずなのに、火の明るさに誘い込まれる虫のように抗えない。
指先は震えて思い通りに動かず、ストッキングを下げるだけなのに手間取ってしまう。
「脱がせるの下手すぎ♡ ざこか? やっぱりざこなのか? ざこざこおじさんなのか?」
「違う。おれはざこざこおじさんじゃない。誇り高い――戦士だッ!」
腕に力を込めた。一気に黒い布地を引き下げる。きれいな膝小僧とふっくらとしたふくらはぎが現れ出て、初めて見るリリムのそこに俺の視線は吸着した。
「おい♡ おじ♡ あし見すぎ♡ 鼻息荒すぎてフスフス鳴ってるぞ♡ そんなにリリムちゃんの生足が好きなの?」
「好きじゃ……ない……」
「おいこら♡ 匂い嗅ぐな♡ ここぞとばかりに匂い嗅ぐな♡ 女の子の匂い嗅いでいいのは好き同士だけなんだぞ♡」
リリムは足をぷらぷらと揺らす。そのたびに赤いスカートの奥の何かが見えそうになって、正気度が削られていく。
落ち着けッ。俺は拳を握り込んだ。爪が食い込むほど強く、そして太ももを殴りつける。痛みが思考をクリアにしてくれる。
「興奮しすぎておかしくなっちゃってる♡ 落ち着け〜、落ち着け〜、まだストッキング脱いだだけだぞ〜。こうしたら――」
リリムがスカートを大胆にめくり上げる。
純白の三角形、可愛らしいフリル、そしてピンク色の小さなリボン。ついにその全貌を目にした俺は――
「おいこら♡ ざーこ♡ 目をつむるな♡ リリムのパンツ神々しすぎるからって目つむるな♡」
甘ったるい声が近づいてきて、耳元で囁く。
「リリム明日お誕生日だから。明日になったら、リリム結婚できる歳になるから。今日はメスガキ、明日から合法メスガキだから」
合法メスガキ。
閉じたまぶたの裏側でその単語が増殖していく。合法メスガキ。合法メスガキ。合法メスガキ。合法メスガキ。合法メスガキ。合法メスガキ。合法メスガキ。
つまり――俺はロリコンじゃないってことだ。
目を開く。青い瞳がすぐそこにあった。
「あ♡ 目開いちゃった♡ 目隠しキスかキスじゃないかゲームしようと思ってたのに♡ 代わりに――キス我慢ゲームするか? こらこら♡ このざこ童貞おじ♡ リリムのファーストキス賭けてゲームしたいのか? 言ってみろおいこら♡」
「――ッ!」
「なんか言え♡ ざーこ♡」
リリムが舌を出して唇を舐めた。つややかに濡れた桜色の粘膜がてらりと光を反射する。
「恋人ごっこするから、我慢できたらおじの勝ち。ご褒美にチューしてあげる。はい、キス我慢ゲームスタート!」
鼻と鼻とがぶつかった。こいつが吐いた息を俺が吸い込んで、俺が吐いた息をこいつが吸い込む。熱を帯びた瞳、紅潮した頬、握りあう手の汗ばみ。
「おじ♡ だめ♡ そこだめ♡ ばれる♡ おじのこと好きなのばれる♡ 好きなオスに意地悪してるメスガキなのばれる♡ 奴隷商で一目惚れして買ったのばれる♡ よわよわなのばれる♡ 好きなのばれる♡ 好き♡ 好き♡ おじ好き♡」
すべては演技だ。分かっている。分かっているのに――頭の中で何かがぷつんと切れた。体温が上昇していく。
「生意気なの許して♡ 好きの裏返しだから許して♡ 分からせて♡ メスガキ一匹分からせて♡ つよつよおじに分からせられたい♡ キスしたらすぐ分かっちゃうから♡ 抱きしめられたらすぐ分かっちゃうから♡」
俺はリリムの肩を掴んだ。ほそっこくて頼りなくて握れば折れそうな繊細な体だ。リリムはくすりと煽るように笑った。
「――でもざこおじだから無理かも。きもいし、なんかくさいし、エロ猿だし、口下手だし、やっぱり無理かも。うん、無理だ。おじにはリリムを分からせることできませ~ん。――悔しかったらやっ・て・み・ろ♡ おじ♡ 好き♡」
この合法メスガキ――
分からせてやるッ!
「お♡ お♡ お♡」
その日の夜、獣のような声が屋敷に響いたとか、響いていないとか……
そして夜が明ける。
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