39.

窘めるような言い方であったが、自身の行ないには深い後悔が混ざり、沈んだ声を出していたのだろう。「次からは気をつければいいのですよ」と、優しい口調で返ってきた。

そんな時、 「ちょっといいか」という声が聞こえてきて、硬直した。

安野の近くに御月堂がいたようだった。

動転して即座に扉を開けた。が、扉の前にいたようで、御月堂に当たってしまい、呻き声が上がった。


「あっ、申し訳ございませんっ。お怪我は⋯⋯」

「このぐらい平気だ。それよりも、お前が大丈夫そうならばいい。⋯⋯松下、行くぞ」

「はい。では、姫宮様。お暇させていただきます」

「あ⋯⋯え⋯⋯はい⋯⋯」


ふいっと、顔を背けてしまった御月堂の後、柔和な笑みを見せて会釈する松下に軽くし返すと、松下は安野にも軽く会釈した後、御月堂らと見送りにと安野も、玄関の方へと行ってしまった。

二度も無礼をしてしまった上に、一度目の謝罪をする隙もなく、御月堂が去ってしまった。

そもそも、姫宮があのようなことをしてしまった後、すぐに帰ったのかと思っていたのだが、小口が言っていたように、困らせていないのだろうか。

気分が晴れず、ベッドへと戻る姫宮の間に戻ってきた安野が、「小口、話があります」と表情が優しそうな笑みだが、雰囲気は怒っている彼女に、小口が「⋯⋯バレたか」と言ってしまったことで、怒りが頂点となった彼女に連行されていくのを見向きもせず。




見上げたくなるほどの晴れやかな空。

うだるような暑さが和らいできて、それでも散歩するのは、朝早いうちがいいだろうと安野が言っていた。

そう言っていたから、今日も安野と誰かもう一人かと思っていたのだが。

一歩先に行く人をチラリと見上げた。


どうして、御月堂様と散歩することになったのだろう。


前の時とは違い、事前に来ることは知っていた。あの時の謝罪をしなければと心の準備を十分にして、いざ本人に告げようとした時に、御月堂の口から「一緒に散歩でもしないか」と言われたのだ。

それも仕事のうちと思い、了承するや否や御月堂と散歩することになったのだが⋯⋯。

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