血龍のリュウ
楠木祐
第1話 忌み嫌われた少年
オリオ地方にアルト村という村がある。方角としては南東に位置するこの村は気温が高くて有名な場所だ。それにより、農作物が育たず人族は飢餓に苦しんでいた。
その村で唯一、神。いや、邪神と言われている一人の少年がいた。
彼の名はリュウ。血を龍のように操る、血龍の龍と呼ばれている。
「血を分けて欲しい奴がいれば俺に土下座をしろ」
リュウは血を求めるものに必ず土に頭をつけさせる行為をさせていた。
背に腹は代えられないので村人はリュウに土下座をする。それを木で組んだ高台から見下ろして悪魔のように笑う。
「やはりお前らは面白い。こんなに有り余っている血如きを必死に求めている。俺が与えないとお前らは生きてはいけない。この事実が俺は最高に嬉しい」
喜びをあぐらをかいた自分の脚をバシバシと叩き表現するリュウを村人たちは気づかれないように睨んでいた。
いつもの日課を終えて、リュウは職人に作らせた家というもので横になっていると人が訪ねてくる。
すぐさま起き上がり眼光鋭くリュウが視線をやるとそいつは頭を黒色の地面につけて言った。
「……む、娘を助けては頂けないでしょうか」
このような願いはリュウにとって珍しいものではなかった。人族はリュウの持つ血が貴重なのを知っているから娘がいるという嘘をついてでも血を欲している。そんな醜い心がリュウは大嫌いだった。
「嘘だったら、わかってるよな?」
リュウに嘘をつくと言うことはこの村では死を意味している。血を与えられずに死ぬか、与えられ過ぎて死ぬか。そのどちらかが待っている。
「もちろん、わかっております」
スクっと立ち上がり、リュウがその男を見下ろす。
「それなら良い。早く、娘のところに案内しろ」
「かしこまりました」
怯みながら男は娘のいるところまでリュウを案内する。
男が足を止めると小さな穴倉が目に入る。
「ここか」
そう言って断りもなしにリュウは中に入る。
そこには削り木を並べた寝床がある。そして、それを使わないように眠る一人の少女がいた。
「おい、彼女の名前は?」
リュウが血を分ける時に名を聞き出すのは初めてのことだった。
誰が生きようが死のうが彼にとってはどうでも良いことだったから。
「そ、ソラと言います」
珍しくリュウは笑ってから口を開く。
「そうか、良い名前だな。それと……」
「な、なんでしょうか?」
リュウは男の目の前に立ち、そして、血を流し始める。
「どうもさっきから血がうるさくてな。お前、俺に嘘をついたな。この娘はお前の子ではない。赤の他人を偽って娘などと。許さん」
血はリュウの頭上で龍のように固まってから男の頭に入っていく。
「仮に、美しい嘘だったとしても嘘は嘘だ。俺は嘘が一番、嫌いでな。俺の血でも煎じて飲んでみろ」
次の瞬間、男の身体は爆発する。
衝撃で娘が起きようとするがリュウはそれを止める。
「そのままで良い。のう、娘よ。お前は本当に俺の血が欲しいか?」
彼女はフルフルと首を横に振る。
「なぜだ?」
「……私、血をもらってもすぐになくなっちゃうから」
「それなら与え続ければ良いだけのことだ」
「無理だよ。私、何も貴方に与えられるものがない」
笑える状況ではないのにリュウはクスッと笑う。
「お前が俺の大切な人に似ているから。それだけの理由で十分だ」
リュウの頭上には小さな龍と細い血がソラに向かって伸びていた。
血龍のリュウ 楠木祐 @kusunokitasuku
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