第8話:巻き戻る運命

エリスが巻物の文字を読み解く中、僕は手に持つ「運命の書」を見つめていた。この書物には、僕がまだ理解しきれない途方もない力が秘められている。それは「運命を巻き戻す力」——僕がこの力を手に入れた時、自分の手の中に全てを掌握しているような気分になったが、実際に使えるのはほんの僅かな瞬間だけだ。それでも、一度失った未来を取り戻せるというのは、計り知れない価値を持っている。


「廉、集中して。運命の書は君の力を必要としているわ」


エリスの言葉で、思考にふけっていた僕ははっと我に返る。彼女は巻物の一部を読み進めながら、慎重にその意味を探っているようだった。


「この巻物、どうやら『運命の書』の写しのようなものだけど、何かが欠けている。完全な情報じゃないわ」


エリスは眉間にしわを寄せながら言った。僕もその可能性を考え、運命の書をもう一度注意深く見直したが、特に違和感はない。けれど、何かが足りないという彼女の直感は正しいような気がした。


「何か他に、手がかりはないのかな」


僕がそう呟いた瞬間だった。どこからか微かな鳴き声が聞こえてきた。


「…今、聞こえたか?」


僕は辺りを見回し、耳を澄ませた。再びその鳴き声が聞こえ、僕たちはその声の方に足を進めた。


「これは…」


古い石の柱の陰、そこには小さな生き物が震えてうずくまっていた。フサフサの白い毛と、大きな瞳を持った小さな幼獣——見た目はまるで小さな狐のようだが、その額には奇妙な紋章が輝いていた。


「こんなところに幼獣が…?」


僕は慎重にその幼獣に近づき、そっと手を差し出した。警戒心を持っていたのか、幼獣は一瞬身を縮めたが、やがて僕の手に顔を擦り寄せた。


「可愛い…」


エリスも驚いたように、幼獣をそっと撫でた。幼獣はそのまま安心したように彼女にも身を委ねた。


「でも、何か変ね。この幼獣、普通じゃないわ」


エリスがその紋章を見つめながら呟いた。その瞬間、幼獣の額の紋章が一瞬輝きを増した。


「これ、ただの生き物じゃない。魔力を持っている…いや、何かもっと特別なものを感じる」


「もしかして、この幼獣が何かの鍵になるのか?」


僕がそう尋ねると、エリスはゆっくりと頷いた。どうやらこの幼獣は、単なる動物ではなく、この遺跡や運命の書に関わる存在であるようだった。


「この子を連れていこう。名前をつけた方がいいな…フィオ、ってどうだ?」


「フィオ、いい名前ね」


エリスが微笑みながらそう言うと、フィオと名付けられた幼獣は軽く鳴いて喜んだ。


こうして僕たちは、幼獣フィオを新たな仲間に加えて、さらなる謎に立ち向かうことになった。

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