第7話:ヴァルハランの遺跡

遺跡の中に足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした空気が僕たちを包み込んだ。外の世界とは異なる、重く静寂に満ちた雰囲気が辺りに漂っている。古代の魔法か、それとも遺跡を守る力なのか、何かがここを見守っているような感覚がした。


「気をつけて、廉。この遺跡には古代の罠や魔法が残されている可能性が高いわ。油断すると…」


エリスが言い終わる前に、足元で小さな石がカタリと音を立てた。その瞬間、周囲の壁に描かれていた古代のルーン文字が淡い光を放ち始めた。


「罠だ!」


僕はエリスの声に反応し、すぐに彼女の手を引いて飛び退いた。直後、床が大きく揺れ、いくつもの鋭い槍が天井から突き出してきた。もし少しでも遅れていたら、確実に貫かれていたに違いない。


「やっぱり…ヴァルハランの遺跡には、古代の守護者がまだ残っているのね」


エリスは冷静に周囲を見渡しながら言った。彼女のエルフとしての感覚が、僕たちを危険から守ってくれたのだ。


「ありがとう、エリス。君がいなかったら、危なかったよ」


僕は息を整えながら感謝の言葉を伝えた。エリスは軽く微笑み、手を離さないまま前に進み続ける。


遺跡の奥へ進むほど、道は狭くなり、薄暗くなっていった。古代の壁には、長い年月を経た絵や文字が刻まれている。エリスはその中から特定の文字を見つけ、真剣な表情で指差した。


「この文字…『運命』と書かれているわ。この遺跡が運命の書に関係している証拠ね」


「運命…やっぱり、この場所には何か大きな秘密があるんだな」


僕はエリスの指摘に同意し、さらに慎重に進んだ。やがて、僕たちは広いホールのような場所にたどり着いた。天井は高く、中央には巨大な石の台座があり、その上に古びた巻物が置かれていた。


「運命の書…いや、これはその写し?」


僕は台座に置かれた巻物を見てつぶやいた。エリスが近づき、慎重にその巻物を手に取った瞬間、空間が揺れ始めた。


「待って…これはただの写しじゃないわ。この巻物にも強力な魔力が宿っている…!」


エリスが言い終わる前に、ホールの奥から何かが動く音が聞こえた。巨大な石の扉がゆっくりと開き、その中から黒い影が現れた。薄暗い光の中、その姿が徐々に露わになる。


「黒騎士…いや、違う!」


僕はすぐに身構えたが、その影は黒騎士よりもさらに異様なオーラを放っていた。全身を黒い鎧に包み、その背後には幾重にも魔法の紋章が浮かび上がっている。


「ここを侵す者は誰だ…」


低く響く声がホール全体にこだまする。その姿からただならぬ力を感じ、僕は思わず一歩後退した。


「古代の守護者…ヴァルハランの遺跡を守る存在ね」


エリスが冷静に答えたが、その声には緊張がにじんでいた。守護者は強力な魔法の力を纏いながら、僕たちに向かってゆっくりと近づいてくる。


「廉、ここは私が…!」


エリスが前に出ようとしたその瞬間、僕は彼女の腕を掴んで引き止めた。


「いや、僕たち二人でやるんだ。今までだって、君と一緒に戦ってきたんだ。一人で背負わないでくれ」


エリスは一瞬驚いたような顔をしたが、やがて微笑んでうなずいた。


「分かったわ。二人でこの守護者を倒して、運命の秘密を解き明かしましょう」


守護者が両手を掲げると、ホール全体に魔力の波が広がり、壁に刻まれたルーンが一斉に輝き始めた。瞬く間に、いくつもの魔法の矢が僕たちに向かって飛び出してきた。


「くっ!」


僕は咄嗟に剣を構え、その矢を弾こうとしたが、魔力を帯びた矢の衝撃は想像以上に強く、何本かがかすめてきた。


「廉、下がって!私が防ぐ!」


エリスが素早く前に出て、両手を広げた瞬間、周囲に緑色の光が広がった。彼女の魔法による防御障壁だ。その光は僕たちを覆い、魔法の矢を次々に弾き返していく。


「すごい…!」


エルフの血を持つ彼女の魔力は、やはり他の魔法使いとは次元が違う。僕はその光景に一瞬見とれたが、すぐに気を取り直して剣を構えた。


「僕も行くぞ!」


僕はエリスの防御を頼りに、守護者へと突進した。守護者は再び手を振り上げ、今度は床から巨大な石の柱を召喚しようとする。しかし、僕はその一瞬の隙を見逃さず、剣を振り下ろした。


「はあああっ!」


剣が守護者の鎧に深く突き刺さり、魔力の紋章が砕け散った。守護者は低く唸りながら後退し、やがてゆっくりとその姿を消していった。


「やった…のか?」


僕は息を切らしながら、エリスの方を振り返った。彼女は微笑みながら僕に近づいてきた。


「うまくいったわね、廉」


僕たちは互いに無言で頷き合い、そして目の前の巻物に目を向けた。この巻物こそが、運命の書の秘密を解き明かす鍵となるのだ。

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