第6話:エルフの血、秘められた力

焚き火の静かな揺らめきが、森の暗闇をほんの少しだけ照らしていた。その光の中で、僕はエリスの横顔を見つめていた。彼女の美しい顔立ちは、どこかこの世界のものではない、異質なものを感じさせた。


「廉、何か言いたそうね?」


エリスがふと笑ってこちらを向いた。僕は言葉に詰まりながらも、どうしても気になっていることを聞く決心をした。


「エリス…君のことをもっと知りたいんだ。さっき君が言っていた、家族のことや運命の書についても。あと、君はどこか普通の人とは違う気がして…」


エリスは一瞬、驚いたような顔をしたが、やがて静かに頷いた。


「そうね…もう隠す必要もないわ。廉、実は私は…エルフの血を引いているの」


「エルフ…?」


僕は彼女の言葉に驚いた。エルフはこの世界では希少で、ほとんど伝説の存在とされていると聞いていたからだ。


「そう、正確にはエルフと人間の混血よ。見た目はほとんど人間だけど、エルフの血が流れているせいか、魔法の才能には少し恵まれているわ」


「それで…あんなに魔法が上手かったんだね」


僕は黒騎士との戦いを思い出しながら納得した。エリスの炎の魔法は、僕が今まで見たどんな魔法よりも強力で、鮮やかだった。


「でも、エルフの血を持っていることは私にとって祝福であると同時に、呪いのようなものでもあるの」


エリスの表情が一瞬、暗くなった。


「エルフの一族は、その特殊な力と寿命の長さから、昔から多くの者たちに狙われてきた。私の家族もその例外ではなかったわ。特に運命の書と関わりを持っていたことで、私たちは常に逃げ続ける運命を背負わされてきたの」


彼女の言葉には深い悲しみと重みがあった。僕はその話に引き込まれ、改めて彼女がどれほど大きなものを背負っているのかを理解し始めた。


「だから私は、これ以上誰かが同じ苦しみを味わうのを見たくないの。運命の書を巡る争いを終わらせるためにも、あなたと一緒に戦うことを決めたのよ」


エリスの決意は固く、揺るぎないものだった。彼女はただの少女ではなく、エルフの血と運命を背負う存在だったんだ。


「君がいてくれて、本当に心強いよ。僕も、君と一緒にこの運命に立ち向かう」


僕はそう言って彼女の目を見た。エリスは微笑み、そして軽くうなずいた。


その夜、僕たちは少しだけ長く話し込んだ。エリスはエルフの一族がどのように迫害され、隠れながら生きてきたか、そして彼女がこの世界で生き延びるためにどれほど多くの戦いをしてきたかを語ってくれた。


彼女がこれまで背負ってきたものがどれほど重いか、僕にはまだ完全には理解できないかもしれない。でも、彼女と共に戦い、共に未来を作っていくことが、今の僕のすべきことだと強く感じた。


次の日、僕たちは森を抜け、次の目的地である「ヴァルハランの遺跡」に向かっていた。そこには、運命の書にまつわる重要な手がかりが隠されていると言われている。


「廉、気をつけて。ヴァルハランの遺跡はただの古代の場所じゃないわ。運命の書を巡る多くの秘密が眠っているけど、それだけじゃない。あそこには恐ろしい力が封じ込められているとも聞いているの」


エリスの警告に僕は頷き、さらに気を引き締めた。僕たちの前には、ただの遺跡ではなく、運命そのものを変える可能性がある場所が待っている。


遺跡の入り口は、森の奥深くにひっそりと佇んでいた。古びた石造りの門が、何世紀にもわたって風雨に晒されながらも崩れずに残っている。


「ここがヴァルハランの遺跡か…」


僕はその圧倒的な雰囲気に息を飲んだ。何かがこの場所を見守っているかのような、異様な気配を感じる。


「中に入るわよ、廉。慎重にね」


エリスが前を歩き始める。僕もその後ろに続きながら、未知の冒険に胸を高鳴らせていた。

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