第5話:深まる絆、隠された真実

夜の静けさが広がる森の中で、僕たちは一息つくために小さな焚き火を囲んでいた。ザイドとの対峙から時間が経ったが、彼の言葉や黒騎士との戦いが頭から離れない。


「廉、大丈夫?」


エリスが優しく声をかける。僕は彼女の顔を見て、少し微笑んでうなずいたが、内心はまだ落ち着かない。


「うん、なんとか。でもザイドのことが気になるんだ。あいつ、一体何者なんだろう?運命の書のことを知ってるなんて…」


「ザイド…彼はきっと、ただの敵じゃないわ。あの冷静さ、そしておそらく膨大な魔力を持っているはず。気をつけた方がいい」


エリスの言葉に僕はうなずいたが、同時に彼女の表情にも何か引っかかるものを感じた。彼女自身も、何かを隠しているような――そんな感覚が頭をよぎった。


「エリス、君は運命の書について、もっと知ってるんじゃないか?」


ふと口にしてしまったその質問に、エリスは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。


「…そうね。あなたには隠し事はできないわね、廉」


彼女は少しだけ深呼吸をしてから、ゆっくりと話し始めた。


「実は、私の家族も昔、運命の書と深い関わりがあったの」


「家族が…?」


「ええ。私の祖先は、かつて運命の書を守る役目を負っていたの。でも、その力を誤って使ったことで、書を巡る戦いが始まってしまった。結果、私の家族はその運命から逃れられず、ずっと追われ続けてきたの」


エリスの声には苦しみが滲んでいた。僕は彼女の隣に座り、そっと肩に手を置いた。


「じゃあ、君もその運命の一部なんだね…」


「そう。でも、今はもう運命の書が私の手を離れて、あなたの手に渡ったわ。だから、私はあなたと一緒に戦うことを決めたの。運命を変えるために」


エリスの目は強い決意で輝いていた。彼女の言葉に僕も心が動かされ、自然と彼女の手を握った。


「ありがとう、エリス。君がいてくれて本当に良かった」


僕たちの間に言葉では表せない絆が生まれているのを感じた。出会って間もないけれど、共に戦い抜いてきた日々が、僕たちを強く結びつけていた。


その夜、僕たちは森の中で眠ることにした。しかし、深夜、僕の夢の中に不思議な光景が浮かび上がった。


僕は真っ白な空間に立っていた。目の前には運命の書が浮かび上がり、そのページがひとりでに開いていく。そこには未来の僕が映し出されていた――だが、その未来は決して明るいものではなかった。


「お前は、運命の書を使い続けることで、どこへ導かれるのか…考えたことはあるか?」


声が響き渡った。姿は見えないが、明らかにザイドの声だった。


「運命を変える力があると言っても、その代償はお前自身の運命を狂わせることになるだろう。お前にその覚悟はあるか?」


僕は何も答えられなかった。運命の書を使うたびに、確かに僕の未来が変わっている。しかし、その変化が良いものか悪いものか、僕にはまだわからない。


「廉!」


突然、遠くからエリスの声が響いた。僕はその声に引き戻されるように、目を覚ました。


「廉、大丈夫?急に苦しそうにしてたから…」


エリスが僕の顔を心配そうに覗き込んでいる。僕は汗で濡れた額を拭い、深呼吸をしてうなずいた。


「夢を見ていたんだ。ザイドが僕に話しかけてきた気がする…」


「ザイドが…?」


「うん。運命の書を使い続けることの代償について、何か言ってた。僕がこれを使い続ければ、未来がどうなるか…」


エリスは黙って僕の話を聞いていたが、やがて静かに言った。


「運命の書は確かに強力な道具よ。でも、何より大切なのは、あなたが何を信じ、どう行動するか。未来は書き換えられるけど、その結果がどうなるかは、あなた次第よ」


彼女の言葉に少し安心した。未来を決めるのは運命の書だけではない。僕自身が選んだ道が、未来を形作るんだ。


「ありがとう、エリス。僕は君と一緒に、正しい未来を掴むために戦うよ」


エリスは微笑んでうなずいた。その笑顔が、僕に再び勇気を与えてくれる。どんな困難が待ち受けていようとも、僕たちは一緒に立ち向かう覚悟を決めた。

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