第3話:エリスの秘密
「廉、次はこの呪文を試してみて」
エリスは興奮気味に新しい呪文を教えてくれた。彼女は教えるのが上手で、僕もだんだん魔法の基本がわかってきた。少しずつだが、異世界に馴染んでいく自分を感じ始めていた。
「光よ、さらに強く輝け!」
僕の手のひらで、今度ははっきりとした光の球が浮かび上がる。初級魔法だが、自分で成功させたことに自信が湧いてきた。
「すごい、廉!やっぱりあなた、素質あるわ!」
エリスは嬉しそうに手を叩いた。彼女の明るい笑顔を見ると、こちらまで元気になってくる。
「ありがとう、エリス。君が教えてくれたおかげだよ」
「ふふ、そんなことないわ。あなたが努力したからよ」
彼女の褒め言葉に少し照れながらも、僕たちは次の練習場所を探すため、町の外にある森へと向かった。
森の中は、静かで不思議な雰囲気が漂っていた。エリスは僕の隣を歩きながら、ふと真剣な表情で口を開いた。
「廉、聞いてもいい?あなた、運命の書をどこで手に入れたの?」
彼女の質問に、僕は少し躊躇したが、隠す理由もないので正直に話すことにした。
「僕が異世界に転移してきたとき、気がついたら手に持っていたんだ。どうやって手に入れたのかは自分でもよくわからない」
「そう…。でも、普通の人が手にできるものじゃないわ」
「どういうこと?」
エリスは少し沈黙した後、低い声で話し始めた。
「実は、運命の書は古代の伝説に登場するアイテムなの。持ち主の未来を操作できる力を持つけれど、その力を使いすぎると、世界そのものに歪みを生じさせるって言われているわ」
「歪み…?」
「ええ。だから、歴史の中で運命の書を手に入れた者たちは、皆、謎の失踪を遂げているの。それが、運命の代償なのかもしれない…」
彼女の言葉に少し寒気を感じた。運命を操作するということが、ただ便利な力ではなく、危険な側面を持つということが徐々に理解できてきた。
「それじゃあ、僕がこの力を使うのも、気をつけなきゃいけないんだな…」
「そう。でも、あなたならきっと大丈夫よ。私はそう信じてるから」
エリスはそう言って微笑んだが、彼女の目にはどこか不安な影が映っていた。それが何を意味するのか、僕にはまだわからなかった。
森の奥に進むにつれ、僕たちは広い開けた場所にたどり着いた。ここで魔法の練習を続けようとしたその瞬間――。
「…誰かいる…?」
エリスが小声で警戒した。僕も周囲を見回すと、木々の間に黒いマントを纏った人物が立っているのを発見した。
「おい、君たち!ここは立ち入り禁止だぞ!」
その人物は、遠くから僕たちに向かって警告してきた。鋭い眼差しでこちらを睨みつけているが、その姿からただならぬ雰囲気が漂っていた。
「すみません、私たちはただここで…」
エリスが言い訳を始めるが、相手は聞く耳を持たない様子で、ゆっくりと近づいてきた。
「お前たち、何をしている。魔法の練習か?」
「そうですけど…」
「それはダメだ。この場所では魔法の力が異常に強まる。普通の魔法でも、制御できなくなることがある。下手をすれば、命を失うぞ」
その男の言葉に、僕たちは顔を見合わせた。確かに、何か異様な空気を感じる。しかし、運命の書の力があれば、僕たちは大丈夫だと思い込んでいた。
「まあ、そうは言っても、私も少し興味がある。お前たち、見せてみろ。どんな魔法が使えるのか」
彼の挑発に、僕はエリスと共に慎重に構えた。
「よし、行くぞ!光よ、輝け!」
僕が放った光の球は、いつもよりもはるかに大きくなり、制御が効かなくなって空へと飛び上がった。その瞬間、強烈な光と共に爆発音が響いた。
「何だ、これ…!」
僕の魔法が暴走し、制御を失ってしまったのだ。慌てて運命の書を取り出し、状況を収束させるために何か書き加えようとしたが、その時――。
「お前、やはり運命の書を持っているのか!」
男の目が光り、鋭く僕に問いかけた。彼の視線は、運命の書に向けられている。
「それを持つ者は…ただの旅人ではない。お前は、運命に選ばれた者だ…!」
僕は何も答えられず、ただ彼を見つめるしかなかった。彼が何者で、何を知っているのか。そして、運命の書が一体何をもたらすのか――まだ僕には全てが謎だった。
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