第2話:新たな仲間と魔法の秘密

「無事に出られたけど、これからどうしようか…」


牢から出された僕は、騎士に連れられて城の門前に立っていた。騎士は軽く頭を下げてから、何事もなかったかのように去っていったが、僕の頭の中は混乱していた。


異世界に来たばかりで、何もわからない状況での運命の急展開。だけど、この「運命の書」があれば何とかなる――そう思っていた。


「とりあえず、街に入って情報を集めるしかないか…」


門をくぐると、城下町が広がっていた。石造りの家々や露店が立ち並び、行き交う人々が忙しそうに動き回っている。まさにファンタジーの世界だ。


だが、僕が街を歩き回っていると、突然、目の前で誰かが転んだ。


「いたた…」


「あ、大丈夫ですか?」


思わず駆け寄って手を差し伸べた。地面に倒れていたのは、小柄な女の子。彼女は少し恥ずかしそうに笑いながら僕の手を取った。


「ありがとう…助かったわ。私、エリスっていうの。あなたは?」


「僕は廉、佐藤廉。異世界から来たばかりなんだ…」


「えっ、異世界から?」


エリスの目が驚きで大きく見開かれた。僕は、自分が異世界から来たという事実を正直に話した。それが当たり前のことだと思ったからだが、彼女は不思議そうに首をかしげた。


「異世界の人か…。でも、この世界では異世界からの人は珍しくないのよ」


「そうなのか?」


「うん、たまに異世界から勇者とかが召喚されたりするんだけど、あまり成功しないのよね…。それで、その人たちはどうするかというと…」


エリスは言いかけたところで、急に真剣な表情になった。


「とにかく、ここは危ない場所も多いわ。特に、魔法を使う者たちは注意しないと。君、魔法は使えないの?」


「魔法?いや、使えないと思うけど…」


「うーん、それはちょっと不便ね。でも、運命の書っていうものを持っているのなら、きっと役に立つわよ」


「えっ…運命の書を知っているのか?」


彼女の言葉に驚きながら、僕は慌ててその本を隠そうとしたが、エリスはニッコリと笑った。


「うん、少しはね。でも、ここで話すのはよくないわ。ちょっと外れたところに安全な場所があるの。そこまで案内してあげる!」


彼女はそう言って僕の手を引き、街の外れにある小さな建物へと導いてくれた。


「ここなら大丈夫よ。誰も聞いてないわ」


エリスは安心したように深呼吸して、僕に向き直った。


「それで、運命の書って…本物なの?」


「本物だと思う。未来を操作できるんだ」


僕はためらいながらも、運命の書の力を説明した。牢屋から脱出した時のことや、今後どう使えるか試したいことを話すと、エリスはますます興味津々な様子だった。


「すごいわ、それ!本当に未来を変えられるなんて…でも、注意しないといけないことがあるわ」


「注意…?」


「ええ。運命を操作する力は、強大すぎて時に逆に作用することがあるの。たとえば、あまりにも大きな変化を望むと、その分、反動が大きく返ってくることがあるって聞いたわ」


「反動…」


確かに、それはリスクだ。大きな力には大きな代償があるとはよく言われるものだが、この書も例外ではなさそうだ。僕は慎重に使わなければならないと感じた。


「でも、今はあまり心配しないで。まずは魔法の基本を覚えた方がいいわ。私も少しは教えられるから!」


「魔法か…ぜひ頼むよ!」


エリスが微笑んで杖を取り出すと、周りの空気が変わった。彼女はゆっくりと呪文を唱え、次の瞬間、小さな光の玉が現れて宙を舞った。


「これが『ライト』という初級魔法よ。簡単に使えるから、まずはこれを練習してみて」


「へぇ…すごいな」


僕は驚きながらも、彼女の教えに従って試してみた。杖は持っていないが、エリスに言われた通り手をかざし、集中する。


「光よ、現れろ…!」


何度か試したが、何も起こらない。


「うーん、難しいな…」


「焦らないで。魔法にはコツがいるのよ。運命の書の力に頼りすぎず、自分の力を少しずつ引き出していくことが大切よ」


エリスの言葉に、僕は再び力を集中させた。すると、ほんの少しだが、手のひらに微かな光が見えた。


「やった…!」


「上出来よ、廉!この調子でいけば、すぐにもっと強い魔法も使えるようになるわ」


エリスは嬉しそうに微笑んだ。僕はこの異世界で生き抜くための一歩を踏み出した気がした。そして、「運命の書」と新たな魔法の力を手に入れた僕の冒険は、ここから本格的に始まる。

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