第1話:運命の書

「ここは…どこだ…?」


目を覚ました僕は、周囲を見回した。そこに広がっているのは、見知らぬ風景。空は不自然に青く、草木はまるで鮮やかな絵画のようだ。


「異世界…って、本当にあるんだな…」


自分が何を言っているのかもよくわからないが、この現実はどう見ても今までの世界とは違っている。僕は先ほど受け取った「運命の書」を開き、その中身を確認する。


「運命の書:持ち主の未来を記し、操作する力を持つ」


書物の表紙に描かれた紋様が、光のようにほのかに輝いている。この本をどう使えばいいのかはまだわからないが、とにかく何かしらの力があることは確かだ。


僕はまず、自分の周りを見て状況を把握することにした。とりあえず、目の前にある丘を登り、周囲を見渡す。


「なんだ…あれは…?」


丘を越えた先に広がっていたのは、巨大な城だった。まるで絵本の中に出てくるような、中世の城塞都市が目の前にそびえ立っている。


「やっぱりファンタジー世界か…」


僕は少し興奮しながらも、その城を目指して歩き始めた。リセットして戻れるという安心感もあり、怖がる気持ちは薄い。それにしても、この「運命の書」がどういう力を持っているのか、それが気になって仕方がなかった。


しばらく歩くと、突然、背後から声がした。


「そこの旅人!止まれ!」


「えっ?」


振り返ると、そこには鎧を身にまとった騎士が立っていた。鋭い眼光でこちらを睨んでいる。


「お前、何者だ?この辺りは危険地帯だぞ。こんな場所を歩いているのは怪しい者しかいない」


「え、いや…僕はただ…」


どう説明していいかわからず、僕は言葉に詰まった。だが、騎士はその隙を見逃さなかった。


「黙れ!怪しい者はとりあえず捕まえるに限る!行くぞ!」


あっという間に騎士たちに囲まれ、僕は縄で縛られてしまった。抵抗しようとする間もなく、僕は連れ去られていく。


「…まいったな」


しばらくして、僕は牢屋の中に閉じ込められていた。目の前には鉄格子があり、外に出ることはできない。


「どうする…?リセットしてやり直すか…」


だが、僕はふと「運命の書」を思い出した。これが本当に「未来を操作する」力を持つのなら、この状況を変えることができるかもしれない。


本を開き、ページをめくる。すると、そこに自分の名前と、現在の状況が記されていた。


「佐藤廉、異世界に転移。騎士に捕まり牢に閉じ込められる」


「…なるほど、そういうことか」


未来が書かれているということは、この本で状況を変えることもできるということだ。僕は試しにペンを取り出し、本にこう書き加えた。


「佐藤廉、牢屋から脱出するために騎士に会話で信頼を得る」


書き終えると、文字が一瞬光り、消えた。そして次の瞬間、牢の扉が開き、先ほどの騎士が現れた。


「…お前、もしかして、ただの旅人か?さっきは疑って悪かった。どうやらお前は無実のようだ」


「え?」


驚きながらも、僕は騎士に手を引かれて牢から出ることになった。どうやら本当に、運命が変わったようだ。


「この本、やばいな…」


僕はこの世界で生き抜くための力を手に入れたのだ。そして、次に待ち受ける運命がどんなものであっても、僕はそれを変えることができる。そう確信した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る