第5話:アイアン小隊

現在、航空母艦『エンタープライズ』は、3万人を乗せ地球へ向かっている。急遽、破棄予定だった本艦を無理やり宇宙に出した代償として、燃料と食料の備蓄が不十分である。通常、4ヶ月かかる距離を本艦は8ヶ月かけて地球へ帰還する。その間船を守る為の兵も兵器を不十分な為、この航海は実質—

「無理がある」


「え?そうなの?」


居住区で再会したセリンとこの航海の穴について話していた。

「前にも同じような事例があったんだ、クローバー・ファウストって言う船なんだけど、木星から地球に帰還途中に、燃料が足りないことに気がついた艦長が、燃料を節約しながら火星に航路を変更したんだけど、結局到着できずに遭難した」


「じゃあ私たちも…」


「いや、今回は運がいい。なんせ地球と火星が一番近い瞬間だから。滅多なことがない限り遭難はしないさ」


現状、火星はテスチアンに占領されてる。他の街の人も脱出できたのだろうか?

『こちら艦橋、パイロット及び志願兵は至急レッドドックに集合してください』


志願兵… 俺か。他に何人かいるらしいが、急ごう。

「ジュン!その… 気をつけてね」


「あぁ、セリンもな」


俺らが召集されたって事はつまり… そう言うことか。レッドドックに着くとすでに何人かの志願兵とパイロットが揃っていた。志願兵の何人かは、高校で見覚えがある。

「俺ぁキエル・シュルツだ、軍曹と呼んでもらって結構。それではブリーフィングを始める。敵の軍艦が三隻こちらへ向かってくるのが確認された、内二隻は駆逐艦、一隻は航空駆逐艦… あーつまり翔機を搭載してる駆逐艦だ。今のエンタープライズには就役時のような装備がほとんど残ってない、よって俺らで駆逐艦を戦闘不能にする」


壁に備え付けのスクリーンを起動させ、簡易的地図を映し出した。空母を表す緑のマークと敵駆逐艦を表す赤いマーク。

「敵の翔機は10機だ、少ないのは多分、偵察艦隊ってことだ。これは俺らにとって好都合。まず、俺らパイロットと志願兵でペアを組む。翔機の数が足りてない現状、数人にはFS-66 ラデールに乗ってもらう」


FS-66 ラデール?あれは試作機が10機ほど生産されてボツになった戦闘機じゃないか?火星のスクラップヤードにはそんな珍兵器もあるのか。

「あの兵器はちと特殊でな… まぁ、その都度説明はさせてもらう。では、総員!持ち場へつけ!」


俺は迷わずダグラスさんの機体に向かった。数時間ぶりにみたこの機体は、地上仕様ではなく宇宙仕様になっていた。バックタンクにくっ付くように取り付けられた二つの燃料タンクと4つのスラスター。地上仕様とは打って変わってゴツくなってる。リフトでコックピットまで行き、ヘルメットを着用して乗り込んだ。

『システム=オンライン。マスター・ジュン、認証完了。全身稼働リンク、起動』


全システムが稼働したことを確認した後、キエルから入電があった。

『俺がテメェのペアだ。足引っ張んじゃねぇぞ』


「そんなに心配だったんですか?意外と優しい…?」


『バカ言え!ジャンケンに負けただけ… なんでもねぇ!さっさとカタパルトに行け!』


格納庫中心のエレベーターに乗り、カタパルトまで持ち上げてもらった。

『こちらヘッド、カタパルト射出します』


管制塔、通称ヘッド、からのカウントダウンの終わりに翔機が力強く飛び出した。他の翔機と合流し、エンタープライズの後ろにつき、周囲を警戒した。向こうの戦力は10、こちらは18。数では勝っているが、熟練度では向こうが上だろう。

『ダグラスの機体名はレイジイング・アイアンだった。俺らの小隊は機体名に必ずアイアンをつける、それはお前のだ、お前が名前をつけろ』


「そうですか… では、ダグラス・アイアンと名付けます。ダメ… ですか?」


『… いいだろう。ようこそ、我らがアイアン小隊へ』

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