第4話:ランド・オブ・ヘル III

ダグラスさんをそっと置き、簡易的ではあるが埋葬をした。彼とはそこまで深い関係ではなかった、なんなら今日初めて会った。だが、俺を守り、俺に生きろと示した。今はこれだけしかできないが、この戦いが終わったらちゃんと葬儀をしよう。

「全身稼働リンク、去年のロボコン以来だな…」


再度、動くか確認をし、スラスターを展開した。思った以上に、翔機は操縦が難しい。平衡感覚を保ちながら飛行をし、目指す場所は戦闘区域。上空から火と煙が跋扈する街を眺めていたら、誰かから入電があった。

『ダグラス!さっさと応答しやがれ、まったく!こっちにも増援が必要なんだ!』


「その声…」


聞き覚えのある声、ラーデム少佐の車に乗ってた男の声だ。

『聞いてんのかダグラス!あ?名前が… ジュン・スラットリー?あの小僧!?おい!どういう冗談だこれは!』


「… ダグラスさんは… 戦死しました」


ボイスオンリーからモニターの端に男の顔が映った。

『あいつの最後はどんなんだった』


「勇敢でした… 最後まで、戦士として戦い抜き、俺の命を救ってくれました」


ややあって男の名前が書いてあるのが見えた、キエル・シュルツ。

『お前はシェルターへ向かえ。レッドヒルトップ高校なら全身稼働リンクの授業があったろ』


「いえ、俺も戦います」


『何言ってんだテメェは!民間人だろ!?黙ってシェル——』


キエルからの入電を一時的に切った。俺は、この街が好きだった。拠り所のない俺を軽蔑せず受け入れたこの火星が好きだ。それなのに…

「テメェらは何なんだよ!テスチアァァァァァァァァン!」


スラスター全開での反動に耐えつつ、AIが捉えた敵機に目掛けてすっ飛んでいった。

「テメェらは!人間じゃねぇ!!」


上からフリーフォールで下にいる敵機に光線を数発撃ち込んだ。倒れた敵機の上に着地し、潰した。

ああ、ここってオオスロ通りじゃん。ボウリング、楽しかったなぁ。

正面から敵機が二機突っ込んでくる、片方は斧を、もう片方は銃を持ってる。斧を持った方が接近してきた。

「そこを退けぇぇぇぇぇええええええ!!」


最初の大振りを躱し、下から敵の胴体をアッパーカットし、確実に、コックピットを破壊した。もう一機の敵は離れたとこから撃ってくる。俺は倒した敵の残骸を盾にしながら落ちた銃を拾い上げ撃ちまくった。が、家に隠れて当たらない。すると奥から一機の翔機が飛んできた。その翔機は、友軍機は敵機をあっさりと倒してしまった。ここでまたモニターに映像が出る、キエルだ。

『ったく危なかったな』


あの友軍機はキエルの翔機だ。

「何で来たんですか。俺はやめませんよ、こいつらがいなくなるまで」


『そんなんはどうでもいい。それよか撤収だ』


そういうと、彼は上に指を刺した。そこには数隻の軍艦がテスチアンの軍艦と交戦していた。

『あっちの方に空母を待たせてある、時間がないから急ぐぞ』


あっちとはどうやらシェルターの方らしい。本当に空母が待っているのか?疑問に思いながらもついていった。

空母は開けた場所に着陸していた、それよりも驚いたのが、その空母というのが伝説のエンタープライズという事実にだ。

『レッドドックに入れ』


その指示の下、艦橋の右上にあるドックに入っていった。

翔機をラックに入れ、俺はコックピットを出た。だがそこに待ち構えていたキエルに頬を殴られ、後ろに転けた。

「テメェ!自分がどんだけ危険な橋渡ってんのか分かってんのか!?」


「それぐらい知ってますよ!子供扱いしないでください!」


キエルは二度目のゲンコツを入れようとしたが、踏み止まり、その場を去った。

艦内のほとんどがボロボロで、いかにも廃棄待ちの船って感じだ。居住区へ向かう途中、とある部屋を通り過ぎた。そこには何人かのパイロットとキエルがいた。

「このまま逃げてもすぐ撃墜されますよ!」


「おまけにパイロットも、翔機も不足している!こんな形ではとても戦えん!」


どうやらパイロットたちがキエルに対して抗議しているらしい。話から察するに、エンタープライズは難民を連れて火星を離脱しようとしてる。

「ラーデム少佐にも考えあっての決断だ、今更変えられん!」


「キエル!」


「あぁ!?クソガキ…!馴れ馴れしく呼び捨てしてんじゃねぇぞ!」


「人が足りないなら俺も参戦させてください!俺だって戦え—」


左頬を殴られた、その勢いで後ろに倒れ込んだ。

「テメェに何ができる、ああ!?言ってみやがれ!」


「戦えます!」


「テメェ…!ダグラスの代わりになろうなんて思うなよ…!」


「代わりじゃありません、補充です。それにこれは戦争、U.E.A.は『戦争時、兵の補充がままならない場合、高校一年生からなら自発的に参加を申し立てた場合、その場の最高指揮官に判断を委ねる』とあります」


「俺は認めねぇぞ」


「ここで言う最高指揮官とはあんたではなく、ラーデム少佐の事だ。あんたの意見は求めてない」


数秒の間、キエルと睨み合った。そこに、後ろのドアから一人入ってきた。

「認めよう」


「ラーデム少佐!?本気で言ってんすか?」


「ああ。だがそれは地球に着くまでの間だけだ。他にも立候補がいればその都度僕の報告しろ」

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