第3話:ランド・オブ・ヘル II

友軍機のコックピット、首の付け根からハッチを開け、這いずり出てくる一人の兵士が見えた。すぐさま駆け寄って引っ張り出した。さっきの衝撃で彼は至る所から血を出してる。

「今人を呼んできます!」


俺が走り出そうとした瞬間、兵士は俺に手を掴み止めた。震える手でヘルメットをとった男の顔に衝撃を覚えた。尋問室にいた男だった。血で詰まった口から思いっきり血を吐いた後、彼は俺に向かって言った。

「に… ゲ、ロ… 」


そうだ。この人は嫌なやつじゃない。人一倍人思いな人なんだ。なんで俺は誤解していたのだろう。

「あなたを連れて逃げます!絶対に死なせません!」


と言っても、こっからシェルターまで遠い。どれだけ急いで走っても、彼は助からないだろう。

彼は震える指である方向を指した。目線を向けると、指の先にはあの翔機があった。

俺の身体より大きい大人の肩を持ちながら一歩ずつ近づいた。彼は俺にコックピットに入るように指示した。彼が外からパネルを操作し、機械音が告げた。

『機体のマスター権限の譲渡を実行します。現マスター、ダグラス・ドミニアンの指紋…確認しました。次に譲渡先のバイタルスキャン及び指紋接種… 完了しました。これよりこの機体はダグラス・ドミニアンからあなたの物になりました』


彼は、俺にこの翔機を託した。マスター権限、つまりこの機体を動かせるのは俺だけということだ。

「ダグラスさん!」


彼は今にも途絶えそうな命を燃やし、俺に放った。

「生きろ」


コックピットは閉じ、前方のモニターが外を映した。燃え盛る街、翔機と翔機の戦闘で放たれた緑と赤の光線、それらが俺の顔を照らしていく。涙で前が見えないことに今更気づく、俺は泣いていたんだ。いつから?そんなのどうでも良い。ただ、彼の、ダグラスさんの死が受け付けなかった。

『あなた様の名前を言ってください』


機械はそんな俺の気持ちを知らずに問い続ける。やっと決心し、俺は立ち上がった。

「俺は… ジュン・スラットリー」


『ジュン・スラットリー… 名前の登録が完了しました。全身稼働リンク、開始します。Let God Lead You』


モニターにポップアップするインターフェイス、右端には機体の損傷状況、左上には簡易地図。右手をあげ、動作確認をする。全身稼働リンクは、コックピット内のマスター権限のある者の身体とリンクして機体を動かす技術だ。接続は良好、戦える。


1時間前——…

車でジュン君を送り届け、元の予定通りバーへ向かってたその時、爆発音がした。僕らはすぐさま車を降り、状況の確認を行なった。

「ラーデム少佐!造船所が燃えてるっす!」


彼の指差す方向に視線を向ける。確かに造船所の方向から黒煙が立ち昇ってた。

「キエル、一旦戻るぞ」


「え!?燃えてるんすよ!?」


「多分、これだけじゃ終わらないはずだ。戦力になるものはできるだけ集めておきたい」


予想通り、上空にテスチアル軍のエンブレムを堂々と掲げた軍艦が近づいてきた。

「は!?んでテスチアルが… デブリベルト隊は!?」


「デブリベルト隊は… もういないだろう」


数は数十隻、艦隊にしては少ないが街一つを殲滅するなら十分すぎる戦力だ。

「走るぞ」


「え?車は…」


「そのうち渋滞に巻き込まれる、走った方が早い!」


幸い、現在地から造船所まではそう遠くない。走って15分… 10分以内で行けるか?


走り出して11分、ようやく造船所まで辿り着いた。途中、道路が瓦礫で塞がれてたので遅れた。

「ラーデム少佐!よくぞご無事で!」


「ダグラス!そっちこそ大丈夫だったか?艦長は!?」


「私はなんとか… 他のものは助かりませんでした… 艦長も…もう…」


「今は生き残ったやつを集めろ、数が必要だ。あとお前は翔機で出てくれるか?」


「任せてください!」


造船所の中はパニック状態だ。僕は迷わずその混沌の中を歩いてある場所に向かった。僕の船か?いや、あれは真っ先に破壊されただろう。ではどこに?僕は知ってる、この造船所の地下にあるを。

エレベーターシャフトで降りた先はクレーターの最深部、廃棄場だ。ここにある英雄の船、それが僕の目当てだ。思えばあの日から、僕はこいつに見惚れていたのかもしれないな。

「航空母艦エンタープライズ、先の戦争を生き延びた英雄の船、この艦の名を継ぐ12代目の船。噂通り、ここにいたか」

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