第2話 キャスター

「あーあ…せっかく一撃で楽にしようと思ったのに」

「ハァ…ハァ…お前!なにもんだ!」

後ろに咄嗟に転んだから良かった。

目の前には地面から口紅の様な物が突き刺さっていた。

玄関の境目部分の鉄がひん曲がっている。


「まあいいや。とっとと死んでね~」

「回れ!」

俺は慌てながらもタバコひと箱を取り出し言葉を発して前方に煙の盾を貼る。

そのままの勢いで部屋に逃げ込む。


「も~。初心者なんだから早く死んでよ!」

廊下から足音が聞こえてくる。どうする?どうする?頭をフル回転させながら俺はタバコをかき集めてポケットに入れる。


「ここだ!」

俺は窓を開けて煙を1つずつタイルにして、階段状にして外に出た。

確実に俺を殺しに来ている相手を前に逃げる事しかできない。


「ふぅん…やっぱ殺されないだけあるね!まあたまにはいいか…カメラを壊して…っと」

少女は近くの監視カメラを俺の部屋から壊していく。


「よっと!」

後ろから声が聞こえたと思ったら少女は口紅を地面に突き刺し伸び縮みを上手く使い、地面に降りてきた。


「な、何が目的だ!」

「んー。教えちゃおっか!えっとね。能力は能力者を殺すと強くなるの!東京には5いっぱい居て強さが最大になれば願いが叶うんだって!」

「…は?そのために俺を殺すのか!?」

「?…当たり前でしょ?」

「…イカレてんのか!」

「うるさいなー!回れ!」

口紅が思い切り俺の手のひらを突き刺す。


「うああああ!」

「これだから初心者は…情けないですなぁ」

「回れ!煙よ最大まで増えろ!」

「きゃっ!?」

俺は辺り一面に煙を出し、煙を広げる。

四方八方が煙に包まれれば追って来れないと考え俺は逃げる。

幸い素足のため音は出ないはずだ。

俺は煙の中でも視界は晴れているため、少女を振り向きながら確認するも煙たがりながら後ろに下がり煙から脱出したようだ。


「あら!エンジちゃん!どうしたの!」

「おばちゃん!離れろ!」

後ろから赤い物体が高速でおばちゃんを突き刺した。

心臓部分に刺さり即死なようだが、それよりも異変は死体が一瞬にして消えた事だ。

だが今は考えていられずとにかく走って逃げる。


「ハァ…ハァ…ここまで来れば一旦大丈夫だろ…持ち物を確認しよう…」

タバコは6箱(1箱20個入りで120本だが現在は少し減って110本)

スマホで時間を確認した所時刻は18時。人も少しはいるもののあまり人が通らないため、犠牲者は多くないだろう。

その瞬間スマホのロックが顔認識で開き俺は異変を感じた。

見覚えの無いアプリが存在している。


「名前無しでタバコマーク?とりあえず見てみよう…なっ!?」

そこには決闘中と表示され相手の位置が分かるようになっていた。

そして何よりも恐ろしいのは勝利条件だった。

・相手の死亡

と書かれている点が現実を突きつけて来た。

殺すか殺されるかだろう。


「ねえねえ何見てるの?」

「え?…回れ!」

「あらら!あまりにも間抜けで声かけちゃったよ!」

「くそっ!」

エンジは盾を10層貼り急いで角を曲がり逃げる。


「ねー!もう終わりにしようよー!」

「ぐっ…そ、そうかもな!」

「じゃあさ!…は?」

「詰みだろ!これで!」

俺だって接近に気づいてない訳じゃなかった。

予め手後ろにしておき、夥しい数のナイフを用意し辺り一面に突き刺しまくる。

方向の指定ができないため、当たるかどうかの範囲攻撃だ。

少女は頑張って口紅を限度いっぱいまで大きくして振りまわしてナイフを何本か落としていくが、腹部

「俺だって死にたくないんでね!」

「うぅ…いたっ…ぐっ…」

少女は痛みのあまり腹部を抑えて悶えている。


「もう俺に関わらないなら許してやる!」

「うわあああああ!」

少女は正気ではない顔付きで口紅を持ち辺りを突き刺しまくる。

俺は能力を使えばいいものの、少女の圧に押されてしまい全力で逃げる。

少女は追いかけてくるものの、伸ばせる限度があるのか俺には届かない。

傷の痛みが余程深いのか後ろをチラチラ見ると蹲っていた。


俺は24歳だが喫煙者のため肺がかなり痛い。それを必死に抑えて走り続けた。

そして10分ほどかけて交番にたどり着く。


「助けてください!」

「いやーそれでさー。めちゃくちゃ怒られちゃってさー」

「大変っすね先輩!笑」

「ちょっと!聞いてるんですか!」

「なんか、声聞こえたくね?」

「そっすか…?」

警官は俺に全く気がつかないようで、辺りを見ている。


「どうなってんだ…?」

俺はスマホを見る事にした。


WIN!

ムアを撃破!

タバコが自動で右ポケットにチャージされる(10分毎)


スマホにはそう書かれていた。

「は?どういうことだ?…ってあれ?傷が戻ってる?」

手の傷は一切見当たらず気づくと息切れをしていたはずが、息切れすらしていない。

どういうことだ…?と頭を抱える。


「あの…お兄さんどうしたんです?」

「あれ?さっき声かけても気づかなかったのに…?」

「あれ?すいません。声かけて貰っちゃいました?」

「そ、そうだ!さっき襲われたんです!」

「えぇ?だから裸足って事ですか?」

「俺の家の近くで女の子にいきなり襲われて…」

「んー…ちょっと検査していいですか?」

「へ?」

俺は薬物を疑われ検査をされるも勿論何も出なかった。


「じゃあちょっと行きましょうか?」

「は、はい!お願いします!」

そして戦った家の近くを見るも何も無い。

戦って出来た塀などの傷も無い。


「んー。ちょっと何も無いですけど…」

「いや!本当なんですって!」

「まあ…パトロール強化しておきますから何かあったら通報してください。それじゃ!」

「そ、そんな!」

俺は警察に置いていかれるも、不思議に思いスマホを見るも表示は変わっておらず何が起きているのかサッパリだった。


「本当に何もない…」

辺りを見ても何も落ちていない。

自分の頭がおかしくなったのかパニックになりそうになる。


「…とりあえず帰ってみるか」

家に帰ると玄関にあったはずの傷は無くなっており、全く訳が分からないというしか無かった。


「あ!アプリだ!あれを見てみよう!」

アプリを開くと簡素なUIで2つ項目があった。


・マッチング:現在不可(可能な時間まで後48時間)

・はじめての方へ


「初めての方へ…?」


この度はタイムサービスからお買い上げ誠にありがとうございます。

現在資産の半分をお支払いいただき誠にありがとうございます。

本製品を購入された方には特別サービスといたしまして、能力を強くしたい方に向けたサービスがございます。

なお、このサービスは製品購入者は全員強制加入となっております。

各種オプション料金などは不要ですので、ご安心ください。

サービス利用中以外での購入者様同士の戦いはできませんので、ご注意ください。


本サービスによって被る被害は何れも対応いたしませんので、ご承知いただければと思います。

サービス利用の際に相手を無力化などの設定が可能となっておりますが、絶命以外は能力の成長はございませんので、ご認識のほどお願いいたします。

サービス利用中に万が一絶命された場合は違う空間に転移されますので、ご注意ください。

本製品ご購入者の方が民間人に攻撃を加えた場合その民間人は存在事消えます。

※歴史が変わるため乱用は控えていただければ幸いです。


また、能力値が最大を迎えた際は願いが叶う物品をご用意いたします。

存分に楽しんでいただければ幸いです。タイムサービス一同より。


「…最悪だ!やっちまった!どうすんだよこれ!」

俺は急いで返品できるか昼の番号にかけ直すも電話は利用されていないらしく無意味にアナウンスが鳴った。


「チャンスじゃねえ!地獄だ!助けも来ない殺し合いだろ!?デスゲームなんかに誰が金払って参加したいって言うんだよ!」

怒りをぶつける場所もなく、ただただ時間が過ぎて行った。


「48時間…その後に恐らく来る可能性がある…とりあえず今日は身体を休めよう」

俺はタバコを吸う気にすらならず、そのまま寝る事にした。


かくして俺の地獄は始まった。

どうなるかすら分からない5億円と命を賭けてしまったデスゲームが始まった。


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