第15話 ビニグス村①
乗合馬車に乗ること三時間。流れ行く景色はポツリポツリとあった民家を荒れ果てた畑へと変えていき、やがて鬱蒼とした山林が顔を覗かせる。
最早ここまで来るとこの先に人がいるのかさえ疑問だが、目的に辿り着くとそこは人が住んでいそうな小さな村だった。
アーラに続いて櫛奈も下車する。ちなみに乗合馬車に最後まで乗っていたのは、二人を除いてローブ姿の人が残っていただけだ。これ以上の僻地に行く人なんてそうそういないのだろう。
「いや~着いたな~ビニグス村。アーラは大丈夫なん? 疲れてへん?」
「私なら大丈夫だよ! クシナもいるんだもん!」
「ん、んん……? まあ元気なら良かったわ」
櫛奈がいることと長旅で疲れることになんの因果関係があるのか首を捻るも、答えも出ないのでこれ以上深く考えないようにする。
「ところでクシナ~。さっきまで馬車の中でブツブツ言ってたけど、何か考え事?」
「考え事って程でも無いんやけどな~。ちょっとフェイレスから能力を買わせてもらっててん」
「え? 大丈夫なの? だってフェイレスさん悪徳なんでしょ?」
『誰が悪徳ですか。ワタシの価格帯は適正ですよ』
商品の悪評は見過ごせない店主フェイレスが人目も憚らず姿を見せる。
「いや、なにしょうもないところで姿見せてんねん」
『これは価値がない弁論ではありません。きちんと説明をしなければあらぬ風評被害をワタシの商品に掛けられてしまうのですから』
別にアーラ以外にフェイレスのことを説明するつもりもないのだが、彼は契約を生業としているのだから、余計なイメージを持たれたくないのだろう。悪魔なのに少し人間臭い。
「騙されちゃダメだよ。フェイレスさんは今は良い人かも知れないけど、これからどうなるか分からないんだから」
それは全人類に同じことが言えるのでは? と櫛奈は疑問を浮かべるが、まあ彼女のような警戒心があるに越したことはない。
先刻警戒心が無さすぎた結果から男二人から絡まれるという失態を犯したので、あまり強いことも言えない櫛奈は彼らを仲裁することしかできない。
「ほら、つまらんことで言い争ってやんと、早く依頼者のところ行くで」
少しウマが合わない一人と一体を引き連れて、地図に書かれた場所を目指す。
目的地までは歩いてそれほど掛からなかった。
そこは古びた教会のようだった。教会を囲う柵や教会自体はボロボロだが、他は手入れが行き届いているように見受けられる。
呼び鈴など便利なものはない。人は居ないものかと、門前から中を伺うが人影もなし。
後は大声で呼び掛けるぐらいかと思った矢先、横合いから咳と共に声が掛かった。
「あのう、孤児院に何か御用でしょうか」
あ、そう言えばフェイレスが姿見せたままじゃないか、と声のした方を振り向くと同時に、彼の姿を探すがいつの間にか消えていた。抜け目の無いやつだ。
「……どうかされましたか?」
「いや、何でもないんです。すみません、急に押しかけてしまって。貴女が、レィタム=ルムダさんですね?」
改めて声の主へと視線を移す。黒を基調としたシスター服を着た女性。五十歳ぐらいだろうか。後ろで束ねた金色の髪には白髪が混じっていて、顔に刻まれた皺が相応の年齢であることを物語っている。
突如訪れた変な服装で門前に立つ人間に、ゴホゴホと咳をする口を手で隠しながら彼女は不安が滲んだ瞳を向けていた。
「そう、ですけど。あの、もしかして依頼を見て来て下さった方達ですか?」
「はい、そうです。私とクシナは
アーラの質問に彼女は安心したように息を吐き、それから招くように教会の入り口へと案内する。
「わざわざこんなところに来てもらって、ありがとうねえ。どうぞ中へ入って。そちらでお話しするわ」
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