第4話 幼馴染に俺は胃袋を掴まれそう
昼休みの校舎裏。俺と玲奈は、並んで弁当を食べていた。玲奈が手作りしたおかずは、なんていうか……やたらと美味い。
「……ほんと、玲奈って料理上手いよな」
俺はつい口をついて出た感想を漏らす。玲奈は小さく鼻を鳴らして、得意げに笑った。
「でしょ?頑張って作ってるんだから、もっと感謝してよね」
「いや、感謝はしてるけどさ。玲奈の弁当、まじでレベル高いよな……お前、もしかして料理教室とか行ってんのか?」
「そんなの行ってないよ。ただ、作るのが好きなだけ。ってか、そんなに気に入ってくれるなら、毎日作ってあげようか?」
玲奈がにやりと笑って俺の顔を覗き込む。その目は、俺がどう反応するかを楽しんでいるように見えた。
「い、いや、毎日ってのはさすがに悪いよ。自分でも何かしら作るし」
「ふーん、そうなんだ?」
玲奈はからかうような視線を向けながらも、「ま、たまにならいいか」とつぶやき、自分の弁当を口に運んだ。
だが、俺の心は既に揺さぶられていた。
毎日玲奈の弁当を食べられるなんて──それは嬉しいけど、同時に何かがおかしい気がする。
昔の玲奈だったら、こんなことを言わなかったはずだ。最近の玲奈は、やたらと俺に近づいてきている。
それがどういう意図なのか、わからない。俺の好きなことや弱点を知っているから、俺が断れないようにしているのかもしれないけど、それだけじゃない気がする。
「なぁ、玲奈……」
思わず口に出しかけた瞬間、玲奈の手が俺の肩を軽く叩いた。
「はい、次これ。お肉、拓が好きなやつでしょ?」
「え?あ、うん、ありがとう」
玲奈が差し出したおかずを口に運ぶと、確かに俺の好みの味だった。
玲奈は俺の好きな食べ物や嫌いな食べ物、全部知っている。まるで俺のことを完全に理解しているような気さえする。
「ほんと、お前には敵わないよな。何でそんなに俺の好みがわかるんだよ?」
「そりゃ、ずっと一緒にいたからでしょ。何年一緒に過ごしてると思ってんの?」
玲奈は当たり前のように答えたけど、俺はその言葉に少し戸惑ってしまった。そうだ、俺たちは子供の頃からずっと一緒にいた。お互いのことを知り尽くしている──そう思っていたのは、俺だけじゃなかったのかもしれない。
でも、もしそれだけなら、どうして玲奈は最近こんなに積極的なんだろう?
「……玲奈ってさ、最近なんか変だよな」
思わず口をついて出た言葉に、自分で驚いた。玲奈も一瞬だけ目を見開いたけど、すぐに笑顔を作り直した。
「変って、どういうこと?」
「いや、その……俺に対して、こうやって何かとちょっかい出してきたり、好きなことを調べてくれたり……前はそんなことなかったじゃんか」
玲奈は黙って俺の話を聞いていたが、俺が言い終わると軽くため息をついた。
「んー、そっか。まぁ、確かにそうかもね。でも、私が変わったんじゃなくて、拓が鈍いだけだと思うけど」
「は?」
突然の言葉に、俺は理解が追いつかなかった。玲奈が変わったんじゃなくて、俺が鈍いだけ?意味がわからない。
「……あー、もういいや」
玲奈は微妙に不機嫌そうな顔をして、そっぽを向いた。俺は何か地雷を踏んだのかもしれないと思ったが、何が悪かったのかもわからないままだった。
しばらく沈黙が続いた後、玲奈がポツリとつぶやいた。
「……昔からずっと一緒にいたら、気づいてほしいことだってあるんだけどな──」
その声は小さくて、俺にはほとんど聞こえなかった。
「え?何か言った?」
「何でもないよ!もう弁当終わったなら、戻ろっか」
玲奈は急に立ち上がり、俺の手を引いて歩き出した。結局、何を言いたかったのかはわからないまま、俺たちは教室に戻ることになった。
その日の放課後、俺は部活も終えて一息ついていると、玲奈からスマホにメッセージが届いた。
『今日、家寄っていい?』
それだけの短いメッセージだったけど、玲奈が家に来るのはいつものことだ。俺の家でゲームをしたり、テレビを見たり、そんな時間を過ごすのが日常になっている。
「いいけど、何かあったのか?」
すぐに返信を送ると、「ちょっと話したいことがある」とだけ返ってきた。話したいこと?玲奈がそんなふうに言うのは珍しい。
俺は少し胸がざわつくのを感じながら、家に帰って玲奈を待つことにした。
しばらくしてインターホンが鳴り、玄関を開けると、いつもの玲奈がそこに立っていた。だが、どこかいつもと違う。微妙に表情が固く、何かを決心したような顔をしている。
「おじゃましまーす」
玲奈は軽い調子で入ってきたけど、俺はその雰囲気に飲まれないよう、できるだけ自然に振る舞った。
「何だよ、話したいことって?」
リビングに腰を下ろし、俺がそう尋ねると、玲奈は少し間を置いてから口を開いた。
「……拓さ、私に気づいてないことあるよね?」
「え?気づいてないって、どういうことだよ?」
玲奈は真剣な顔で俺を見つめてきた。その瞳には、いつものからかうような軽い雰囲気はない。俺は不安に駆られながらも、その視線をそらすことができなかった。
「私ね……もう待てないんだよ」
玲奈の声は小さかったけど、その言葉には確かな重みがあった。俺は、一体何が始まろうとしているのか、全く予想がつかないまま、ただその場に座り続けた。
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