龍狩りの夜
爽月柳史
月穿ちの夜
龍を狩ることを生業としている。
紺碧に金色。雲はなく、風は凪いでいる。
「いけそうか?月ノ目」
「向こう次第。ちょっと静かにしててね」
月ノ目と呼ばれた青年は、空を仰いだ。青白い双眸が月明かりに照らされる。
「良い夜だ」
月ノ目は一言呟いて銃を構えた。月を撃ち落とそうとしているのか、銃口はまっすぐ月に向いている。
狙っているのは満月の夜に現れるという月龍だ。月と生き、陽と闇に溶ける龍と言われ月光の下でしか見ることができないので、普段はどこで息づいているのか判明していない。満月の夜に空へ身を躍らせるということだけが分かっている。そのため、月龍を狩るには満月の夜、月龍が月の前を通ったその瞬間を狙うしかない。
細く息を吐く。全身を耳にし空気の流れを読み、視野を月へと引き絞る。
タァーン
月の前に鱗が煌めいた瞬間を違えずに撃ち抜いた。
ドサリと月色に輝く龍が落ちてくる。
大人の男ほどの大きさだ。
「ん、まあまあかな」
「それをまあまあって言っちゃうから怖いよ」
月ノ目に月龍狩りを依頼した男は、呆れながら月龍を眺めた。そもそも月龍など遭えれば幸運、仕留めるのは奇跡だと聞く。逆鱗(さかうろこ)という最高峰の龍撃ちで友人の月ノ目なら可能なのだろうかと話を振ったら、今夜の狩りが行われた。
目の前に横たわる月龍を触り、現実であることを実感する。同時に友人の腕と運を思い知った。
「さ、運ぼう。君の工房でいいだろ。そっち持って」
「お、おお」
「なに引いてるのさ。君が月龍を欲しがったんだろ」
「悪い悪い。まだ実感が湧かなくてさ」
「解体が始まれば実感なんていくらでも湧くよ。だから早く運ぼう。早く一服したいんだ」
月ノ目は溜息を吐いた。
龍狩りの夜 爽月柳史 @ryu_shi_so
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