一話 龍の鱗を持つ少年
「おそらく今日、依頼人がうちに来る。お前は接客とかいいから、ただ見ておけ。」
昨日戸を叩いて此処に来たフィアナに予定を話し、お茶などの用意をお願いした。
王家の苗字を名乗ったのも真実味を帯びるほどに手際が良く、そこあたりは叩き込まれているように思えた。
「お前は俺の仕事を何も知らない筈だろ?今回の依頼人も同じだ。だからお前の疑問に思ったことは質問していい。その疑問は必ず依頼人も抱くものだからな。」
昨日の雨も無かったかのような晴れであり、このままならば昼過ぎには来るだろう。
そう思うの束の間、トントンと扉が叩かれた。
「いらっしゃい、私が脱色屋店主のアーウェンと申します。」
やってきたのは家族連れであり、人族の母親と
そして今回の依頼内容にもあった、この二人の血を引いた息子だ。
「お子さんまた生まれるのですか?」
フィアナは母親のお腹が大きい事に気づき、より寛げるように足置きを持ってくる。
「長旅はお体に触ったと思います。何かあればすぐにおっしゃってください。」
「ありがとうございますアーウェンさん。そちらのお嬢様もね。」
「それでは一応前もって手紙でお聞きにはなっていますが、今回の依頼対象の・・」
そう言い、息子の方に目を向ける。
彼はブカブカな上下の服を着ている。傍から見れば何かのファッションかなと思われるが、今の彼にとって、肌を見せることはあまりにも危険なことのようだ。
「龍の
息子さんはみたところ龍人族に見られる翼などは見受けられない。
母親の血が濃いのだろう。ならばこの魔法が発現する可能性はある。
「やはり俺の血のせいなんですか先生。」
「お父さんのせいではありません。これは説明しないといけないものですね。」
そこらへんに落ちてた紙に図を描きながら説明を始める。
まず同じ種族同士で子を成した場合、その種族の種族的性質を持った子供が生まれる。しかし他種族同士(今回であれば人と龍人)で子を成した場合、どちらか一方の種族的性質を持って生まれる(今回であれば人の性質を持って生まれた)。
ここで問題になるのが、引き継がれなかった性質は基本的に『魔法』という形で発現しやすいのだ。それが今の彼を苦しませている原因である魔法『
「この魔法は外敵などから身体に影響する物理的障害を負いかけた際に自動で発動する魔法です。しかもこの魔法で生成される鱗は剣のような切れ味と鋭さを持っています。」
魔法を初めて発現のするのは5歳から8歳ほどと言われており、しかも皆等しく魔法を発現した際に、その魔法をコントロールすることがまず出来ない。これはそもそも魔法を発現するまで、魔力をコントロールするという動作を行えないことが起因している。
「しかもこの子はこの魔法との適正が恐らく著しく高いのでしょう。少しの衝撃で起動してしまうと手紙で書かれてたので。」
普通であれば一年ほど時間をかけて魔力のコントロールを練習し、魔法を抑え込めるようにするのだが、適正が高い場合、抑え込む前に被害を出しかねない。
「俺の血のせいで息子が他の子達と遊べず、触れ合うことも今なお出来てない。」
父親も悔やんだ表情をする。かなり長い間この問題と付き合っていたらしい。
「それでこれを解決できる人がいると聞いて此処に来たんだ。頼むよ先生、息子を治してくれ!!!」
「まずは料金の支払いです。」
脱色屋は前払い方式だ。
「お題は金貨5枚です。」
「金貨五枚ですか...」
「嘘だろ先生!?そんな大金払えねぇよ。」
金貨5枚、これは一般的な家族の年収に等しい金額だ。しかもこれは両親共働きでの話である。
「アーウェンさん、流石に私も高いと思います。貴方はただ魔法を使うだけじゃないですか。」
「この金額は絶対に変わらない。私は色を捨てさせることは出来ます。けど色を再び付けることは出来ません。」
一人の人生においてどれぐらい魔法を発現、もしくは習得できるかは未知数だ。
そして彼の魔法はその魔法を手にする機会を奪うことに等しい。
「他人のこの先の人生の根幹に手を入れる仕事です。人間が1年で稼げる金額に設定してるだけマシだと思って欲しい。それにこの金額は奥さんの方は知っているはずです。」
「そうなのかお前!?」
「知っています。そしてそのお代も用意しております。」
袋から金貨5枚をテーブルに並べる。
「私は覚悟を決めてここに来ました。貴方はどうなの?」
「俺は...俺もそうだ。」
母親の気迫に負けたのか、先ほどよりも小さくなった父親を他所に子供の方に向く。
「これは君の問題だ。両親はその色を消して欲しいと頼んでいるが、一番の当事者である君にも聞きたい。」
捨てる覚悟を彼に問う。
「先生。」
小さく呟いた。
「お父さんみたいになれるこれを捨てたら、僕はお父さんの子供じゃ無くなるの?」
それはきっとずっと考え、悩んでいたことなのだろう。
彼以外が差し図れる問題ではない。それでもアーウェンは口にする。
「確かに君には龍人族の特徴は無い。それでも君の両親は君の為に此処まではるばる来たんだ。それは君が『大事な息子』である証明だと私は思う。」
手袋のついた手を握る。
「私は君の未来からその魔法の色を消せる。けどこの先その魔法によって誰かを救うかもしれない、逆にだれか傷つけて取り返しのつかない事になるかもしれない。それは誰も分からないし、そうなるなんて誰も教えてくれない。」
後悔は常に後の祭りだ。だからこそ選択し、決断しないといけない。
「君はどうしたい。」
「僕は....」
「僕は捨てたくないです。この魔法はお父さんが僕にくれたものなんですよね。それなら僕はこの色を持っていたいです。」
「それは茨の道だ。言われのない痛みを負うかもしれない。それでもいいんだね?」
「はい!もうすぐ僕の弟か妹が生まれるんです。その時に胸を張って『これはお父さんの魔法』と言いたいです。」
「だそうですご両親方。息子さんは凄く強い人のようです。」
二人は彼に目を向けている。それは心配と先の不安、沢山の感情が入り混じる目だ。
だかそれでも二人も選んだのだろう。
「なら少しでも力になるわ。」
「お父さんになんでも言ってくれ。物しか作れないけどな!」
二人が強く抱きしめる。
フィアナは気づく。
「話では魔法がき・・・」
「今は静かに」
口に指を当てられ、言葉を遮られる。
今ここにいる家族全員が恐らく長い間出来なかったことをしているのだ。ちゃちな指摘は不要だろう。そしてここからが彼の出発地点だ。
「ならもう仕事は終わりです。・・相談代は銅貨1枚です。しかもツケに出来ます。」
彼の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわし、目を合わせる。
「その魔法で誰か守れるようになったら払いに来い。払いに来なかったらこっちから行くから忘れるなよ。」
「はい!」
「行ってしまいましたね。」
「今日はタダ働き同然だ。貯蓄崩さないとな~金庫にどれぐらいあったけ」
「そういえばお帰りになられる際に息子さんに何を渡したんですか?」
「あれね~魔導書。」
「え・・・・・えええええええ!!!???」
魔導書。魔法を発現するのではなく、習得する際に用いられる書物だ。
しかし単体の単価は一冊で家が何件も建つとも言われている。
「渡したのはたしか龍人族関連の奴だよ。昔貰って埃被ってたからあげた。」
「あげ....あげたですか。」
この人は一体どれほどのお金とそれに変えられる程の物品を持っているのだろうか。
「ひとまず食器片づけておきます。」
「助かる。この後は晩御飯は自由時間だ。勝手にしてくれ。」
私はこの人から色を消してくれる日はくるのだろうか....
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