脱色魔導士と居所無しの放浪少女 ー貴方の色 貰いますー

焼鳥

序章 脱色屋、それは人生を曲げる店

魔法。それは人の営みと共に発展し、人々が作り上げた技術とは異なる奇跡の技。

赤・青・緑・白・黒の五属性、を持つそれは多くの者に知恵と力を与えた。

そして此処に一人、それらの色から外れた力、の魔法を持つ青年のお話。


王都レリア。魔法で成り上がり、数多の国を吸収した大国の端の端にその店はある。

。雑に書かれた看板とお店には見えない一軒家がその店である。

「ふ~。暇だ暇、お客も来ないんじゃもう店じまいだ。」

予約制のそのお店を仕切るのは一人の青年。

使い古されたボロボロのローブを纏い、この辺りでは珍しい黒髪。

それが彼、アーウェン・バーレットである。

「予約のお客も今日は来ないな。昨日土砂降りだったから、来るのは明日だな。」

看板をひっくり返し、『閉店』とする。

部屋の中はごく普通の独身男性が生活するだけの生活備品と、山積みになった本の数々。

「どれが読んで、どれが読んでないんだっけ。」

適当に拾い上げた本を見開き、近くの椅子に腰を下ろす。

「今日はもう配達屋さんも来ないだろうし、だらけ生活するか。」

ペラペラとページを捲り時間を潰す。

開けた窓から心地よい風が入り、次第に眠気に襲われ瞼を閉じる。

「起きたら...晩飯作らないと...」


・・・・コン。

(何か聞こえる。)

・・コンコン。

(今日は人が来ない筈だが。」

コンコンコン。

(気のせいじゃない!)

急いで体を起こし、すぐさま営業モードに入る。

予約の人が来たのだろうか?でも手紙ではかなり遠方から来ると書かれていたので、まず今日来るのは無理だ。

では誰が扉を叩ているのか。そもそも『閉店』の文字が読めないのか。

重い瞼をこじ開けながら、扉を開けた。

「初めまして。此処に来ればと聞いて来ました。」

陽のような明るい金髪の少女がそこにいた。よく見れば裸足で、着ている服も泥だらけだ。どうやってこの店を知り、どのような手段で此処まで来たのかは知らないが。

「そんな身なりで放置させるほど、当店は冷たくない。中に入りな。」

適当な服と靴を渡し、濡らしたタオルで体を拭かせる。

一通り綺麗になったところで、改めて要件を問う。

「ここは脱色屋。色を持ちながら、その色を捨てたい人が集うお店です。お客様は何色を失う為に此処に来たのですが。」

少女は顔を上げ、大きな声で

「私が持つ、魔法の色全てを消して欲しいのです。」

「断る。」


ここは脱色屋。

色を失う為に人々はこのお店に向かう。

人生の根幹に関わる魔法の色を、悩み悔み後悔するとしても。

「お前からは失う恐怖を感じない。お前は魔法の苦しみを知らない。

俺はそんなお客から色は奪えない。それは俺の管轄外だ。」

人生を歪ませるほどの決断をして此処に人は来る。

ならばそれを生業とする彼にも信条がある。

「お前が真にを手放したいと思った時、俺が消してやろう。

そうだそうだ!お前の名前を?」

「フィアナ・レジェッタ。」




「改めて。ようこそ脱色屋へ。」

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