第15話:七夕祭り

 「七夕ですか?」

 「えぇ。龍子君、手伝ってくれてありがとね。」

 「いえ、暇だったので。」


 今日は七月七日。

 瑠菜とサクラ、龍子は昨日の宴会の片づけをしている。

瑠菜が数十本にもなる酒瓶を抱えていると龍子が持ってくれたので、それをほかの場所に並べておいて、台を拭いたりお皿を洗ったりと、大みそかのように片づけを朝からしていた。


 「七夕って、一年間会えない恋人が唯一会える日なんですよね。ロマンチックで憧れちゃいます。」

 「ふーん。」

 「まぁ、私は会いたいときに会える人のほうがいいけどね。」

 「え?瑠菜さんって、寂しがり屋ですか?」

 「んー?一年に一回……、いや、二、三年に一回でも……」

 「七夕よりも合う気ないじゃないですか!」


 サクラと瑠菜が恋バナ(?)を始めたため龍子は黙って片づけを進めた。

 龍子には興味すらもないのだろう。


 「龍子君は彼女とかいないの?」

 「は?いや、いませんよ。それより、何か仕事をもらったんじゃないんですか?」


 瑠菜がサクラの関心を自分から背けるために龍子に話を逸らすと、龍子は半分素の表情を瑠菜に見せた。


 「あ、そうなのよ。商店街の方で七夕祭りをするから、その手伝いを頼みたいんだって。男三人、女二人。行く?」

 「行きます!ね、龍子君!」

 「はい。手伝います。」


 龍子はやることもなかったので手伝いに行くことにした。

だが、嫌そうにも見えたりもする。







 商店街につくと、近所のおばさんが二、三人と、おじさんが四、五人みんなで話をしていた。

 地面には大きめの竹が横にしてあり、テントもたてられている。


 「あら、瑠菜ちゃんに雪紀君、ケイ君も。来てくれてありがとうね。」

 「大丈夫です。暇だったので。」

 「こちらこそ。」


 今日も楓李やあきがどこかへ出かけていていなかったため、雪紀とケイを瑠菜は誘った。


 「あら、そっちの子たちは?」

 「……、龍子です。楓李兄さんの代わりに来ました。」


 龍子は周りの視線がふと、自分とサクラのほうへと向いていることを感じて自己紹介をした。


 「は、初めまして。サクラですっ。」


 サクラも龍子に促されて自己紹介をした。


 「サクラは私が面倒を見ている知り合いの子なの。仕事の都合で海外に両親がいくから、日本にこの子だけ置いていくことになっちゃって。」

 「そうか、そうか。面こい子じゃのう。」


 おじさんがサクラの頭をなでようとすると、サクラは龍子の後ろへと隠れてしまった。

 龍子の身長が百六十センチほどあるため百四十センチのサクラはばっちり隠れることができた。


 「じぃさん、それをセクハラって言うんじゃよ。」

 「はっはっは、セクハラか。まいったな。」


 おばさんがサクラをかばうように言うと、おじさんは大きな声で笑った。


 「それじゃぁ、瑠菜ちゃんとサクラちゃんはこっちで手伝ってね。」

 「了解です。」

 「は、はい。」


 サクラは自分が熱を帯びている気がして、できればこのままでいたかった。


 「行くよ。」


 サクラが動けないでいると、瑠菜が後ろからタオルをサクラにかぶせて言った。


 「それ、持ってて。」

 「……ありがとうございます。瑠菜さん。」

 「私の横にいなさい。」

 「はい。」


 瑠菜はサクラに小声でそう言いながらテントの中へと入っていった。


 「ったく。りゅうこ行くぞ。」

 「……。」

 「?龍、大丈夫?」

 「あっ、すみません。行きましょうか!」

 「大丈夫か?りゅー。」

 「はい。」


 ケイと雪紀が心配するほど龍子はぼーっとしていた。

ケイ、雪紀、龍子の仕事はまず、テントの中に竹を運ぶことから始まった。

男三人で持ってもお世辞にも軽いとは言えない竹はテントの前に横倒しに置かれた。


 「あんたたち、不器用じゃないでしょうね?」

 「不器用は外でもはわいといで。ほかにも手伝いあるだろうし。」


 先ほどサクラをかばったおばさんとはまた別のおばちゃんが竹を運んできた三人に声をかけた。

テントの中ではサクラと瑠菜がテーブルの周りに立って折り紙を折ったり切ったりしている。

 雪紀と龍子はおばちゃんたちにそう言われて逃げるようにほうきを取りに行った。


 「アハハ、僕は手伝えますよ。」

 「じゃ、あの二人にやり方は聞いておくれ。」

 「はい。」


 おばさんは少しぶっきらぼうに言ったが、ケイは気にもしていないような様子で笑顔でうなずいた。

 ケイが瑠菜の横に行くと瑠菜とサクラはにっこりと笑って、ケイのほうを見た。


 「椅子、持ってこようか?」

 「あ、大丈夫だよ。元の場所に戻すのも大変だし。」


 ケイが優しい声で言うと、瑠菜は首を横に振った。

 近くにパイプ椅子はなく、五十メートルほど離れた倉庫から持ってくる必要があるらしい。

 この商店街には倉庫が二つあり、テントの置いてある倉庫の近くにテントを立てたため椅子がある倉庫からは遠くなってしまったらしい。

昔はみんなが好きなところへと店を出していたため、倉庫と倉庫の間が空いたらしい。


 「何を折るの?」

 「基本的には何でもいいと思う。飾りになれば別にいいから。」


 見ると、瑠菜はとてもきれいな七夕飾りを切ったり折ったりしていて、それが横のほうの箱にたくさん入っていた。


 「で?サクラ、それは?」

 「鶴です。」

 「だよね。鶴だよね。」


 サクラは小さい折り紙で二十個くらいの鶴を折っていた。


 「平和の象徴だね。」


 瑠菜もサクラが鶴を折ることに対して何も言うつもりはないらしい。

 サクラはそこまで器用ではないらしく、すごく真剣かつ丁寧に鶴を折っている。


 「あと八十羽です。」

 「千羽鶴?」

 「百羽鶴です。」


 サクラの少し不格好な鶴は千羽鶴のように吊り下げるつもりらしい。


 「手伝うよ。」


 ケイはそういってサクラが持ってる半分の量の折り紙を取った。


 「ありがとうございます。」


 三十分ほどケイはサクラと鶴を折っていたが、ふと静かに黙々と何かを折っている瑠菜が気になった。


 「瑠菜はまたすごいの作ってるね。」

 「貼るくらいならあの二人にもできるでしょう。」

 「さすが、周りのことよく見てるね。」


 瑠菜が作っていたのは花のつぼみを立体にしたようなもので、最後にそれを貼り合わせて球状にするらしい。

テントの周りを箒ではわいている二人を見て他にできることを与えようと思ったらしい。


 「おーい、ちょっと手伝ってくれる?」

 「はい。」

 「なんだ?」


 ケイが二人に声をかけると、雪紀と龍子がうれしそうに来た。


 「ここにあるこれ、貼り合わせてくれる?っていうか、できる?」

 「バカにすんな。」

 「多分、できると思います。」

 「できないんですかぁ?」


 バカにする瑠菜に、雪紀が少し怒ったように言った。

龍子は少し自信がなさそうだ。

そして、サクラは鶴を折るのに飽きたのか、そんな龍子をバカにして笑っていた。


 「サクラ、小さい鶴に飽きたなら大きい紙で鶴を折ってもいいよ。上の方から一つの鶴を吊り下げてもいいと思うし。」

 「はい。わかりました。」

 「雪紀、そっちじゃなくてこっち。りゅーもしっかりやって。」

 「あ、あぁ。」

 「すみません。」


 ケイと瑠菜は、不器用な二人と単純作業に飽き始めたサクラに指導しながら飾りを作った。


 途中、しおんがお昼ご飯を持ってきて、少し手伝ってくれたおかげで飾りはすぐに作り終わった。


特にサクラの千羽鶴はびっくりするほど出来が良かったため、大きな竹に飾ると、すごい迫力があった。


 「今年はもうやらないつもりだったからあんたらが来てくれてよかったよ。」

 「え?そうだったんですか?」

 「もう、私たちも手が震えるし、体力はないし。細かい作業も力仕事もする気ないからねぇ。」

 「間に合わないだろうからもういいかって話だったのよ。」


 おばちゃんたちがゆっくりしゃべるのを聞いて、サクラはハッとしたような表情をした。


 「そっか、七夕今日だ。」

 「今年はもうみんな見に来ないかもねぇ。」

 「明日、明後日まで飾ってもいいかもねぇ。上出来だし。」

 「そうですね。近所の人たち呼べない?」


 瑠菜は悲しそうにするサクラを見て雪紀にそう言ってみた。

雪紀も少し考えてからどこかへと電話をしに行ってしまった。


 「無理だろうね。」


 ケイもそれを見て少し笑って言うと、サクラはすごく悲しそうに下を向いてしまった。なんだかんだで飾りつけなどをしていたため日が半分落ちていた。


『皆様こんばんは。』


 急に、そんな放送が流れたため、瑠菜とサクラ、龍子はびっくりしてスピーカーのほうを見た。

 その理由はスピーカーから聞こえてきた声はとても聞き覚えのあるものだったからだ。

 そう、その声は……。


 「かえ?」

 「楓李様?」

 「え?」


 三人が混乱していると、ケイがニコニコしてテントの外へと出て行った。


 「大丈夫?」

 「あー、疲れた。一日二回も走ることになるなんて。」

 「しー君!大丈夫?」


 瑠菜は重そうにお米などの料理の材料を大量にもって走ってきたしおんのほうに駆け寄った。


 「おばちゃん、ご飯炊ける?カレーとから揚げくらいなら大量に作れるから。僕が作るよ。」


 しおんは淡々とおばちゃんたちに話しかけた。

飾りを作るために建てられたテントの中で料理を作り始めた。

それを見た瑠菜やさくら、龍子は意味が分からずに首をかしげていた。


 『繰り返します。商店街で現在、七夕祭りが開催されています。くじの景品として家電などが当たります。また、夕飯も無料で提供させていただきます。私自身もとても自慢の料理ですので、是非食べに来てください。』


 楓李の声が商店街に響き渡るのとほぼ同時に、遠くの方から人の声が聞こえてきた。

瑠菜とケイはそれに気づいてすぐ、しおんを手伝い始めた。


 「あ、ごめんなさい。水もらってもいいですか?」

 「しおん君、野菜切るの速いね。」

 「これくらいでいい?」

 「はい。大丈夫です。早く準備しないとみんな来ちゃいますから。」

 「でも、いつもならもうすでにご飯作ってる時間じゃない?」

 「本当ですよ。もうご飯作り始めるところでしたもん。」


 しおんと瑠菜が料理を始めると、ケイはその場を二人に任せようと思った。

瑠菜がカレーを作って、しおんが少し離れたところでから揚げを上げる。

基本的には、ケイは全くやることがなかったのだ。


 「あ、楓李さんたちも来てますね。」

 「ほんとだ。お兄と何か話してる。」

 「何話してるんでしょうね。」

 「知りたい?」

 「わかるんですか?」


 お皿にカレーや唐揚げをつぎながら瑠菜としおんはそういって笑った。


 「多分ね、寝てたのに急に起こすなって楓李が言って、お兄が暇ならいいだろって言ってる。で、私のことでも探してるんじゃないかな?」

 「すごいですね。読唇術ですか?」

 「そんなすごいのじゃなくて、ただ耳がいいだけ。」


 瑠菜はそういって笑いながら自分の耳を指さしてしおんのほうを見た。


 「それはそれですごいですよ。」


 しおんもそういって瑠菜のほうを見た。

二人は手を止めることはないがとても楽しそうにカレーを配った。

周りはざわざわしているし、そんなに近くない一の二人の会話を聞けるとなると、確かに読唇術よりもよっぽどすごいのかもしれない。

瑠菜にとっては、遠くの聞きたくないことが聞けたり、集中したいときに遠くの音が聞こえるのは迷惑でしかないのだが……。


 「はいどうぞ。はい、次の人……、あ。」

 「やっと見つけた。しおん、こいつ連れてってもいいか?」

 「あ、はい。」


 瑠菜が次から次に来るちびっ子やその家族にカレーを配っていると、楓李と目が合った。

そのまま連れ去ろうとする楓李に、しおんも楽しそうに答えている。


 「え?いや、手伝うわよ。まだお客さんいるし。」

 「大丈夫ですよ、瑠菜さん。もう料理も一通り終わって、あとは配るだけなので。ありがとうございました。楽しんできてください。」

 「ほら、行くぞ。」


 瑠菜は、楓李に手首をつかまれてそのまま連れていかれてしまった。

瑠菜目当てで並んでいた人たちはそれを見て少しがっかりしたように列から出て行った。


 「楓李、並んでたの?」

 「あ?」

 「だって、わかんなかったから。急に目の前に現れたように見えたし。」

 「……悪いか?ちびっ子の前で横入りとかできるかよ。」


 瑠菜はそれを聞いて吹き出してしまった。見た目はいつも横入りしていそうなのにそうやって周りを見ていることに驚いたのと同時に意外だなとも思ったのだ。


 「笑うなよ。」

 「ふはっ……、ご、ごめん。……ふっ。」

 「いっそのこと声を出して笑ってくれ。」


 楓李は楽しそうに笑う瑠菜を見てそう言った。


(どうせならこのまま帰りたいな。)

 「ねぇ、かえ。すごいよこれ。私も飾り作ったけど、やっぱり短冊が飾られると七夕って感じするよね。」

 「ここに願い事書いて、僕かあっちのお兄ちゃんに渡してね。はい。あっ、瑠菜ちゃんと楓李君。書いていく?」


 瑠菜が七夕飾りのついた竹の近くに行くと、ケイが子供たちに短冊を渡しているところだった。

しおんの手伝いをほおっておいてどこへ行ったのかと思ってはいたが、雪紀を連れて短冊の書き方などを教えていたらしい。

竹のもっと近いところには少し不機嫌そうな雪紀が子供たちから記入済みの短冊をもらって見やすいところへと飾っている。


 「うーん、いや。ちびっ子のかわいい願い事で埋めたほうがいいわ。今回はやめとく。」

 「ふーん。願い事ないんだ。」

 「願っても仕方ない願望ならあるけどね。」

 「ふーん。何?浮気でもされるの?」

 「そうそう、こ奴がすぐにかわいい女の子にデレるから。私にはデレないのに。」


 瑠菜が楓李のほうを見ながら言うと、ケイはありゃーと言いながら楓李のほうを見た。

冗談というのをしっかりわかりながらも後輩をからかいたいのだろう。


 「お前が言えることじゃねぇだろ?」

 「ひっ……、はい。」


 瑠菜は楓李にぼそりと言われて、珍しく本気で怒っているなと思った。

実際にはただの嫉妬だ。


 「あ、瑠菜さん!すごいですよ。人も、飾りもたくさんです!」

 「あら、サクラ。龍子君は?」

 「はい。ここです。」


 サクラの横にはぐったりとした龍子が立っていた。

人ごみになれないらしい。


 「りゅー君、次あっち行きたいです!」

 「龍子だ。お金あるならついて行くけど。」

 「サクラ、はい。お小遣い。楽しんでおいでね。」

 「りゅー。行って来い。」


 龍子はサクラがお金がないことを知っていて断る材料にしようとしたが、楓李から言われてしぶしぶ行くことにした。

龍子自身はできるだけ楓李から離れたくないらしい。

 龍子が綿菓子を買いに行ったサクラについて行ったのを見送ると、瑠菜は短冊一つ一つに目を通し始めた。


 「ねぇ、楓李見て。」

 「ん?」


 瑠菜がは子供のようにはしゃぎながら言うと、そこには『弁強ができるようになりたい。』と書かれていた。


 「本当に、頑張ってほしいなぁ。こういう子ほどちょっと応援したくなっちゃう。」

 「ふーん。間違ってるけど。」

 「楓李も誤字は多かったし。もしかして、天才の特徴かな?」

 「んなわけねぇだろ。つーか、お前なんて算数で漢字間違って減点されてたし。」

 「ほら、やっぱり。この子天才になりそうだね。」


 うれしそうにしている瑠菜の横で、楓李は首をかしげていた。

自分が苦労したため、天才に成長するのはそいつの考え方が関係していると思っていたのだ。


 「なぁ、瑠菜。」

 「ん?なぁに?」

 「どこ行ってたのかとか、聞かねぇのか?」


 はしゃぐ瑠菜が不思議そうにしている姿を見て、楓李は不安になった。

楓李は、コムやこはくから瑠菜がこの表情をしたらこんなことを考えているや、こう思っているというのは聞いたことがあったため、大体、瑠菜の思っていることは理解できる。

しかし、教えてもらっていない表情を瑠菜がしたときや始めて瑠菜がする表情は、瑠菜の考えていることが全く予想できない。


 「姉さんたちから聞かれたの?」

 「え、あ。ま、まぁ。」

 「聞かないよ。」


 瑠菜がいつもの笑顔に戻り、楓李の方を振り向くと楓李は安心してしまった。


 「お前、人に興味ないもんな。」

 「かえ以外の人間には、興味ないよ。」


 瑠菜のその言葉は楓李には届かなかったのか、楓李は瑠菜のいつもの口癖を言ってそのまま歩きだしてしまった。

瑠菜はそんな楓李の腕に抱き着くと、ちらりと楓李を見た。


 「興味ないって言うか、私は楓李の人生に文句や意見を持っていい人間じゃないし。私は楓李の生まれた時のことも、楓李と出会う前のことも知らない。過去に何があったかは見てない。そんな人間が、いちいち過去のことを聞くのって変じゃない?親でも、家族でもないんだし。」


 瑠菜はにこりとも笑わずに、真剣に楓李の目を見て言った。

ふざけてるのではないらしい。

その目は、楓李の目の中にいる自分へ向けて、瑠菜は発していたのだ。

必要以上に他人に深入りしたくないし、自分にも深入りしてほしくはないらしいが、楓李はそれに気づかなかった。

ただ、自分のことを真剣に考えてくれている喜びと、他人扱いされたような寂しさを感じていた。


 「あっ、瑠菜さん!」

 「サクラ、綿あめかえた?」

 「はい!」

 「うわぁ、おっきいね。」

(あれ?今、くっついてた?そんな仲だっけ?)


 瑠菜は大きめの綿あめが刺さった棒を持ったサクラに呼ばれてすぐに楓李からは離れた。

龍子はポップコーン片手に楓李のほうを見たが、楓李は糸思想にサクラと会話する瑠菜を見ているだけで、龍子の視線には気づかなかった。


 「瑠菜さん、一口食べますか?」

 「えぇ―。ありがとう。じゃぁ、一口だけ。」


 瑠菜はサクラに言われてうれしそうに綿あめを少し食べた。


 「おいしいねぇ。甘くて癖になっちゃう。」

 「後輩にたかるなよ。つーか、子供か?」


 瑠菜がそう言うと、楓李が瑠菜の口元についた綿菓子のかけらを食べた。

龍子はそれを見てまた、驚いたように楓李を見た。


 「何イチャイチャしてるんですか?」

 「してねーよ。お前らこそ、デートは楽しいか?」

 「は?……はぁ?そんなわ……わけないじゃないですか?」

 「あれれ?動揺してる?」

 「動揺してたら女の子逃げるぞ。」


 楓李はそういって、瑠菜の手をつかんだ。


 「え?かえ?」

 「こうやって、逃げないように捕まえておかねぇとな。瑠菜、後輩のデート邪魔してねぇで、これでなんかおいしいもん食べようぜ。」

 「ちょっ!それ私の財布じゃん!」


 楓李は瑠菜に財布を見せながら、瑠菜の手を握ったまま歩き出した。

瑠菜は、いつ取られたのかわからない自分の財布を取り返そうと真剣に楓李に訴える。


 「ポテトいるか?」

 「うん、いる!……って、それ私の財布からお金出そうとしてない?」


 楓李が瑠菜の手を引っ張って人ごみの中に入っていくと、ほんの数分で二人の姿はサクラと龍子には見えなくなってしまった。


 「瑠菜さんたち……、仲いいですね。やっぱり。」

 「あぁ、そうだな。」

(あの人もあんな表情するんだ。)


 龍子から見た楓李は、冷徹で表情が変わらない人だった。

何人の弟子や手伝いがやめて楓李から離れても何もないように龍子に仕事を頼み、怒っている姿や無表情しか龍子は見たことなかったのだ。

いや、楓李の弟子は全員そんな姿しか見たことないのだ。

楽しそうに笑っている表情は、瑠菜と一緒にいるとこでしか見たことがない。


 「龍子君……。」


 龍子がサクラのほうを見ると、サクラは手で真っ赤な顔を覆い隠していた。


 「え?大丈夫ですか?何か飲みましょう。」

 「いや、あの……大丈夫。さっきため語だったからびっくりしちゃっただけ。」

 「あ、ごめ…………気を付けます。」


 龍子が謝ろうとすると、サクラは少し笑って首を横に振った。


 「いや、うれしいから。その、ため語でもいいよ?」

 「?では、楓李様と瑠菜様に許可を取りましょうか。」


 龍子はそういって、ポップコーンを自分の口に入れた。

サクラは、寂しい表情を変えようと龍子に声をかけた。


 「え、あ。そうですね。私にも一つください。」

 「どーぞ。」


 龍子がポップコーンのカップをサクラに向けると、サクラはもっと寂しそうな表情になり、一つのポップコーンを自分で手に取った。

なぜサクラがそんな表情をしているのか龍子にはわからなかった。


(少しわがままな性格なのか?)


 龍子は気にはなったが、深く知ろうとも思わなかったので無視をした。





 「いやぁ、ありがとうね。あんなに盛り上がるとは思わなかったよ。」

 「だから言ったでしょう?あの子たちならどうにかするって。」


 七夕祭りが終わった後、瑠菜たちのもとへと依頼をしに来たおじいさんと女性が森の奥で何やら話をしていた。

瑠菜たちのことを知ったような口ぶりの女性は笑いながらおじいさんに手のひらを見せた。


 「本当に、姉さんのおかげじゃなぁ。はい、これ二割。」


 おじいさんはそういいながら大きめのバッグを女性に渡した。

女性は中に入っている札束を見ると満足げにほほ笑んだ。

少し若く見える女性はきれいな顔立ちをしていて、白い肌の見える赤い模様のついた服を着ていた。

美人というにふさわしい外見だ。


 「また何かあったらあの子たちに頼みなさい。あ、でも紹介料は頂戴ね。」

 「もちろん、瑠菜ちゃんたちは真剣に、相談に乗ってくれるからね。」

 「お題は出た利益の二割ね。私は二っていう数字が好きなの。」


 女性はそれだけ言うと、もう言うことはないと言わんばかりにさっさと歩きだした。


 「ちょっと待ってくれ。あんたの名前は?」


 おじいさんは引き留めようとしたが、女性の服を見て首を横に振った。


最初、おじいさんは赤い模様の柄だと思っていたのだが、女性の妖美な笑顔がその模様の意味を語っているように感じたのだ。

ところどころ赤黒くなっているその模様はおじいさんに恐怖を与えた。


 「さようなら。」

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