第14話:怪しいお姉さん

 「楓李様来ないですね。」

 「……はい。」

 「……。」


 サクラが緊張していたためか、龍子とサクラの会話は驚くほど続かなかった。

サクラも龍子もお互いに相手がどこかへ行かないかと願っていた。

龍子その沈黙に耐えられなくなり、避けて通りたかった話を持ち出した。


 「瑠菜様ってどんな方なんだ?」

 「え?」

 「瑠菜様は基本自分のことを隠しているイメージがあり、控えめに言っても怪しいです。それに、楓李様やあき様に守られていて、何もできなさそうです。本当にあの地位であっているのでしょうか?」


 龍子はあまりこの話題については話したくなかった。

しかし、かたくなに心を開かないサクラの気をこちらへ向けるにはこの方法しかないと思ったのだ。


 サクラはサクラで、瑠菜のことをあまりにも知らなさ過ぎて何も言えなかった。

確かに、瑠菜が楓李やあき以外の同期の人と歩いているのもしゃべっているのもあまり見たことはないし、いいうわさを聞いたこともない。


 「る、瑠菜さんは……、やさしくて…………、でも少し意地悪で、いつも楽しそうです。」

 「それだけじゃあ、あの地位は保っていけないんですよねぇ。」

 「はい。それでも私はあの方について行きたいんです。」

(なんで楓李様はこんなやつを守れと言ったんだ?)


 龍子から見たサクラは何もわかっていない主人好きの子供にしか見えない。

 守る意味もない。

龍子からすれば楓李が瑠菜と一緒にいなくなって楓李の仕事が減ることが一番いいと思っていたのだ。


 「あら、あなたが楓李の弟子の……りゅうこ君?」

 「りゅうしです!って、うわぁ!」


 龍子が怒ったように言って振り返ると瑠菜がいた。

それに気づいた瞬間龍子は瑠菜に対して土下座をした。

それを見たサクラは少し引いてしまった。

 

「申し訳ありません!」

 「あらまぁ、龍子君。土下座の安売りをする男はモテないわよ?ほら立って。謝るくらいなら最初から言わないようにしなさい。」

 

瑠菜に言われても聞いていないようにかをあげようとしない龍子に対してサクラは恐怖を持ち始めた時、後ろの方から楓李が歩いてくる姿がサクラには見えた。


 「瑠菜。ん?どうした龍子。」

 「楓李、遅かったじゃない。」

 「楓李様、瑠菜様に失礼な態度をとってしまって、本当に申し訳ありませんでした。」

 「ふーん、じゃぁ行くか。」


 楓李はその言葉を龍子の口から言われても興味がないようで、瑠菜の荷物を取り上げるようにして持って外へと出て行ってしまった。

瑠菜はそれをされてニコニコと笑いながらサクラに、先に行くように指示した。

サクラは渋々楓李に声をかけながら自分の荷物は持ってくれないのかと聞いたが、案の定持ってはくれないらしかった。

ついでにあきは来ないのかも聞いたがそれに対しては答えてすらもしなかった。


 「私にはこの地位はもったいないかしら?」

 「申し訳ござ……。」

 「私もこの地位はもったいないと思ってるからいいわよ。もともとこの地位に就くつもりは一ミリもなかったしね。確かに私は楓李たちみたいに特別すごいところなんてないからね。ちょっとすごい人くらいに思ってくれればいいわよ。」


 瑠菜がそう言うと、龍子は何かを決意したように大きくうなずいた。


 「……一つ、お聞きします。これも、一定の人から見れば失礼に当たるかもしれないのですが。瑠菜様の右足と左手は偽物ですか?会社内でハカセと呼ばれる科学者が作ったもの。」

 「……楓李たちが呼んでるから、もう行こうか。」


 龍子は瑠菜の目をまっすぐ見ていたが、瑠菜は目を細くして微笑むとそれが正しいとも間違いだともいわずに楓李のほうへと歩きだした。

龍子も楓李たちが呼んでいることに気づき、歩き始めようとしたが急に立ち止まった瑠菜にぶつかった。


 「龍子君、サクラのことどう思う?」

 「……女としてのマナー、礼儀は全くないように見えます。言葉遣いもアウトに入るのではないでしょうか?」


 瑠菜は後ろで淡々と語りだした龍子の様子を見てうなずきながら笑ってしまった。


 「龍子君は二人一組でやる仕事の相手って誰?」

 「あー、昨日やめて行きました。」

 「じゃぁ、サクラとこれから組んでもらってもいいかな?今、龍子君が指摘したことも教えてあげてよ。私じゃどうしても甘やかしちゃうのよ。」

 「えっ?」

 「楓李には私から伝えるから。サクラには内緒にしててね?」

(まじかよ。)


 龍子が頭の中で整理しているうちに瑠菜は楓李の横にまで行っていた。


 「そこ、危ないから気を付けてね。」


 瑠菜が止まっていたところには先ほどまでは明らかなかった花瓶が落ちていた。

上のビルを見ると心配そうにこちらを見ているおばさんや、塵取りとほうき、バケツを抱えてきているおじさんが慌てた様子でこちらへと来ていた。

龍子はその人たちに一礼してから楓李の後ろまで走って行った。


 「瑠菜さん、何話していたんですか?」

 「ん?何にも。それより、今日こそ犯人を捕まえましょう!」

 「そうですね!これ以上取られると明日の下着が危ないですもんね!」


 キャッキャッと話しながら瑠菜とサクラがプールまで楽しそうに歩く中、楓李と龍子は一言もしゃべらなかった。

龍子にとってそれは不安でしかなく、本当に楓李の気持ちがわからずにそわそわとしていた。


 プールについてから、前の日同様楓李とサクラを筆頭に五十メートルプールを何往復もして、瑠菜だけがプールに入らずにそれをじっと見ていた。


(やっぱり、あの噂って本当なのか?)


 それを見てさっき否定も肯定もされなかったことについて、龍子はそんなことを思った。

 その日の手がかりもないに近かった。

やっぱり、管理人の潔白が証明されたこと以外は何もなかったのだ。






 その次の日も何も手掛かりはなく、下着なしで行くのはどうかとサクラと瑠菜が離しているのを聞いて楓李がやめとけと一言言った。





 一週間ほどプールに通う日が続き、あきらめの雰囲気を全員が感じた時、瑠菜宛てに大きめの箱が届いた。


 「瑠菜さん、それなんですか?」

 「小さめのカメラと通信機。普通の通販のほうがやっぱり届くの速かったかしら?」

 「お、やっと届いたか。」


 楓李がシャワーを浴びて濡れた髪を拭きながら瑠菜が明けた箱の中身を除きに来ると、後ろの方から龍子が申し訳なさそうにのぞいた。


 「まぁ、もう必要はないかもだけど。もしかしたら、証拠を出せとかいう馬鹿かもしれないからね。プール行って、泳がずに更衣室の中で待機とかあんたたちにはできないでしょうし。」

 「いや、できないことはないと思うけど……。」

 「うーん、ですね。できないことはないと思います。」

 「自信のなさが出てるわよ。とりあえず、明日仕掛けてからプールには入るからね。変なものもっていかないように。特に楓李。銃とか本物と見分けつかないものは持って行かないでね。」

 「銃持ってるんですか?」


 瑠菜に注意されて楓李が目をそらすと、そらした先にいたサクラが目を輝かせて聞いてきた。

龍子も聞きたそうにしているのが見なくてもわかるため、楓李は説明せざるを得なくなってしまった。


 「模型だ。本物なわけねぇだろ?あとは刃物くらいだな。」

 「危険物には変わりないわよ。」


 瑠菜が追い打ちをかけるように言うと、楓李は下を向いたまま動かなくなってしまった。

 箱の中に入っていた少し隠れられそうなカメラを瑠菜は見て少し笑ったように見えたのは龍子だけのようだ。





 

 

 「なんか、ここ数日で若い人がとことんいなくなりましたね。」

 「若い方はいらっしゃらない、な。いや、そうでもないんじゃないでしょうか?」


 サクラの中途半端な言葉を言い換えてから、龍子は若いカップルのほうを見た。


 「あの方たち、毎日来てますね。」

 「ほかにもたくさんいますよ。そんなの。ほら、あのおばぁさんとか。それに、僕らも言える立場にはいませんよ。ここ毎日ずっと来ていますし。」


 泳ぎながら龍子が言うとサクラがじっと見た。


 「私たちは仕事です!」

 「じゃあ、泳いでないで仕事をしては?」

 「お前らなぁ、喧嘩もほどほどに……、」


 龍子とサクラが言い争いだしたのを楓李が止めようとしたその時、バッシャーンという音がした。


 「まじかよ……。」


 瑠菜のいた場所に立つカップル。

カップルの目の前でいまだに少し飛び散っている水しぶき。

 楓李が頭を抱えるのを見てサクラと龍子は何があったかすぐに理解できた。

 奇声ともとれる甲高い声が響いていて、人が集まりだしたのとともにカップルは逃げようとしていた。


 「龍子、サクラを頼んだ。」

 「はぁ?マジすか。わかりました。」

 「犯人逃げちゃう!行かなきゃ。」

 「待て、バカ!」


 龍子は、瑠菜を助けに行く自分の師匠とその師匠に守れと言われたサクラの相手に追われた。

二人は自由すぎて、龍子一人の手には負えないのだ。

その結果、余裕がなくなりすの口調へと戻ってしまった。


 サクラは走ってカップルの目の前で大きく手を広げて通せんぼした。

 大きなプールではないため、カップルを追いかけることはたやすいことだ。

しかし、同様にカップルが逃げるのも早い。

更衣室に入っていくぎりぎりでやっと止めることができた。


 「待ちなさい!そこのバカップル!」


 サクラは色黒の男女にそう言いながら男女をにらんだ。

 サクラの身長が約百四十センチ台。

それに対して無効は高身長ですらっとした体型だ。

女の方は上からサクラを見てぎゃははと笑いだした。


 「は?何?なんか用事ですか?お母さんとお父さんはどこかなぁ?」

 「な!」


 サクラは馬鹿にされたことで殴り掛かりそうになったが、龍子がそれを止めた。


 「すいません。お兄さん、お姉さん。さっきこいつのお姉さんを押したでしょう?こいつ、そのお姉さんのことが大好きで、それを見て走り出しちゃったんですよね。で?押しましたか?」


 龍子は淡々とそう告げた後笑顔でそう聞いた。

が、やはり子供だとバカにしている二人は一瞬顔をゆがめたがすぐに笑顔に戻った。


 「そんなことないよぅ。私じゃないわ。それ以上言うなら親に来てもらうわよ。」

 「学校もやめないといけなくなっちゃうぞ。」

 「あの、……僕親いないです。」

 「私も。」


 子供への脅し言葉という脅し言葉を意気揚々と並べる二人に対してけろっというサクラと龍子を見て男女は笑みを浮かべた。


 「は?何?孤児なのか?」

 「かわいそぉ。」

(めんどくせえなぁ、ギャルかよ。)

(サクラ、こういう人種嫌い。)


 ピキッとこめかみに力が入るような感覚がしたサクラと龍子は出会って初めて意気投合した。


 「まじかわいそうじゃーん。」

 「つーか、風呂とか入ってんの?」

 「入ってないからここで流すんでしょ?」

 「うわ。きったね。」

(我慢しろ。ここで何もしないほうがいいし。)

 「ふ……な……。」

 「は?」

 「なぁにぃ?」

 「ふざけんな!」


 サクラは大きな声で叫んだ。

これには龍子もびっくりしたとともに頭を抱えたくなった。


 「勝手に決めんな。お前らが私たちの幸せを壊すんじゃねぇよ!」

 「ちょ、サクラ……。」

 「サクラ、落ち着こうね。」


 龍子が怒り散らしているサクラを止めようとしていると、瑠菜が横から来てサクラを抱きしめた。


 「瑠菜、さん?」

 「ちゃんと保護者が監視しとけよ。」

 「うちら、暴言言われたんでー、慰謝料お願いしまーす。」

 「その坊やにも叩かれました。」

 「は?」


 瑠菜が来たことで、男女が調子に乗ったような態度へと変わった。

 あることないことを言っている。

 思いもよらない飛び火が自分に飛んできたことで龍子はびっくりした。


 「あら、そんなことしたの?仕方ないわねぇ。慰謝料くらいなら払ってあげるわ。」

 「え?」

 「瑠菜さん!龍子君は殴ってなんかいません!」

 「そうです。僕は殴ってはいません。」


 瑠菜が頬に手を当てながらふぅと息を吐きながら言うと、サクラと龍子が否定をした。

 男女もまさかの報酬がもらえると思ったらしく、少しうれしそうな顔になった。


 「子供の言うことなんて信じられないわよね。あ、それじゃあ、私にも慰謝料くださいね。」

 瑠菜がしれっとそんなことを言うとサクラと龍子が悲しそうな表情をした。

しかし、瑠菜の言葉の意味を理解すると、不思議そうに首をかしげた。


 「は?私たちが何をしたって言うの?」

 「先ほど、あなたにプールへと突き落とされた者です。」

 「あれはあんたが意味の分からないことを言うからでしょう?」

 「そうですか。言い分はわかりました。私の場合はあなたたちに払う額の倍はもらわないといけないですが。まぁ、後日裁判所で会いましょう。」


 男女はそれを聞いて見る見るうちに青ざめた。

瑠菜は少し不気味にも見える笑顔でどんどん追い詰めていく。


 「証拠もなしに訴えるって言うのか?」

 「そうよ、そうよ!証拠はあるって言うの?」


 男が焦った様子でそう言うと、口をパクパクとしていた女も便乗するように言った。


 「じゃあ、あなたたちにはこの子があなたたちを殴った証拠はありますか?見たところ、傷一つないようですが。」


 瑠菜が水着姿の男女の体を隅々まで見ながら言うと、男女はあたふたとしていた。


 「あ、あんたを私たちが突き飛ばした証拠とかあるの?」

 「あぁ、やはり欲しがりますね。もしかして、自分を追い詰めることで快感感じてます?私あの時スマホのカメラ回しっぱなしで、防水がついてるのでこの通り。」


 瑠菜がスマホを見せると、男女とサクラや龍子がのぞき込んだ。

 そこには、カバンの中を漁る女の姿が映っていた。


 「あ、すません。これはさっきカメラから送られてきた今日のデータですね。あれぇ?あなたにそっくりな女性ですね。まぁ、それは今関係ないですもんね。はい、こちらが私を押したあなたたちの顔です。」


 瑠菜は最後までかばんを漁る女性の顔を見せた後に、自分を男女が押したときのものを見せた。

 そこにも一部始終がしっかりと残されていた。


 「あ、おい!逃げんな。」

 「待って!」


 男が逃げようとするのに気が付いた女は一緒に逃げる。

それを見た龍子とサクラは男女を捕まえようとする。

しかし、瑠菜の一声でサクラも龍子も振り返った。


 「逃げられてしまいますよ!追いかけないと。」

 「逃がさないから大丈夫。」

 「うわぁー!」


 男女が逃げた先には待機していた楓李がいて、外からはパトカーのサイレンが聞こえてきた。


 「なんで、楓李様が?」

 「まぁ、私より楓李のほうがいいからね。」


 瑠菜はプールから引き揚げてもらってすぐに楓李に警察の手配と認めるまでは出入り口で待機してもらうように言った。

それだけなのにもかかわらず、楓李は瑠菜が証拠をつかんだからこそだとわかり、言うとおりにした。

第三者から見るとそれは息の合った連携にも見える。


 「瑠菜!そっち行ったぞ。」


 瑠菜、サクラ、龍子元へと男が走ってきている。

もちろん龍子は守ろうとして二人の前に出て行こうとしたが瑠菜に止められた。


 「サクラといて。」


 龍子の頭が追い付く前に、こちらへと向かってくる男を軽く転ばせてから男を抑え込む。


 「え?」

 「私たちのことを人質にして立てこもるつもりだった?残念。そんなに甘くはないのよ。」


 瑠菜の細い片足が男の首をじりじりと締め上げる。

男は逃げようともがいているが、なかなか逃げ出せず、やっと逃げられると体を起こしたときにはそのまま警察に連行されてしまった。


 「バカねぇ、逃げるのに必死すぎて目の前の警察にも気づかないなんて。」

 「瑠菜さぁーん。よかったですぅ。」


 瑠菜がゆっくり立ち上がると、サクラが泣きながら瑠菜に抱き着いた。


 「瑠菜、大丈夫か?痛いところとかないか?」

 「大丈夫、大丈夫。」


 楓李は警察に事情を説明してから瑠菜の元へと戻ってきた。

瑠菜もそれを見てほっとしたように笑いながら楓李をなだめた。

 







 「かっこよかったです。すごかったんですよ!」


 サクラは家に帰りつくなり、雪紀やあき、ケイたちに何度もそういった。

 午後七時を回り、下着泥棒の犯人が捕まったことを知ったしおんがお祝いにとご馳走を用意してくれたので、みんなで食べているときだった。


 「そうか、見れてよかったなぁ。」


 雪紀はそういいながら瑠菜のほうを笑顔で見た。瑠菜からの角度からはこめかみがぴくぴくと動いているようにも見える。


(うっわぁ、怒ってる……。)

 「あとで俺の部屋に来てもらおうか。瑠菜?」

 「遠慮します。」


 瑠菜は目が合った雪紀にそう言われて間髪入れずに断った。

 昔、ちょっとした問題を起こしたので、瑠菜は手を上げることを禁止されているのだ。

絶対に手を出してはいけない。

向かってきたらよけろというのが雪紀と瑠菜の約束なのだ。

 楽しそうにわちゃわちゃとしているところとは少し離れた場所で楓李が立っているのを見て、龍子は楓李のほうへと近づいて行った。


 「瑠菜様って、すごい人なんですね。」

 「何?見くびってたか?」

 「……、少し……。」


 龍子が楓李にそう言うと、楓李は少し笑った。


 「なんでだ?」

 「え?あ、それは。いつも笑っていて頭悪そうで……この前だって社長を怒らせて会長の所まで行ったって聞きましたし。きっと何もできないからこそ楓李様みたいなすごい人が相方なのだろうと、思って。」

 「いい頭してんじゃん。」


 楓李は龍子の頭を軽くなでながら言った。

 楓李が人の頭をなでているところも、楓李に撫でたこともない龍子は楓李のその行動にびっくりしてしまった。


 「あいつは別格だ。」


 楓李はそれだけ言って、黙ってオレンジの液体を飲み干した。


 「何を飲んでいるのですか?」

 「お前はだめ。」


 ほしいとも言ってはいないのだが、何を飲んでいるのかすらも教えてはくれないらしい。

 雪紀と瑠菜がわちゃわちゃとしている方向を龍子が見ると、一人増えているように見えた。


 (あの老人は……会長だっけ?初めて見る人だけど。)


 龍子は人から情報を聞くのが趣味なので、会長の情報もちらっとは聞いていた。

もうすでに空っぽに見える酒瓶が五本もあることから相当な速さで飲んでいるのだろう。


(老人にあの量って殺意あんだろ?)


 龍子はそれを無視して楓李のほうを見た。少し悲しそうな表情で、わちゃわちゃとしているほうを見ているのが見えた。


 「楓李様。」

 「ん?」

 「明日は、誕生日ですね。おめでとうございます。」

 「あぁ、そうだな。」

 「明日の僕の仕事はどうしましょうか?」

 「あぁ、俺は休みだ。自由にやっていいぞ。何かあったら瑠菜に聞け。」

 「はい……わかりました。」

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