第2話 魔法×位階
「——それでは出席番号順に自己紹介をしてもらいます。
最初のショートホームルームで、魔法理論の授業を受け持つ担任の
彼は、去年まで現役の迷宮探索者として活動していた新任の教師とのことだ。本校の卒業生でもあり、第三魔法へと至った優秀な魔法士だったそうだが、探索中の事故が原因で、引退したところを勧誘されて教壇に立つことになったという。
ちなみに、通常の高校課程の授業以外の探専ならではの授業はというと、魔法理論、戦闘実技、迷宮理論、迷宮探索の四つであるようだ。
「先ずは出席番号一番の相沢さんから——」
私は『
「
「はい、次は——」
私の自己紹介により、同級生たちはだいぶ騒ついているようだ。
性別が変わるだけという、攻撃能力も支援能力も持たない固有魔法はとても珍しいので、それでだろう。
「——次、木花さん」
「わたしの名前は
「木花さんの魔法は危険度五です。危険度四以上は暴走の恐れがありますので、迷宮探索の授業が始まって魔法を制御出来るようになるまでは、基本的には距離をとって接するようにして下さい。では次——」
甘野先生により、ユキが危険度五であることを周知され、教室に大きな騒めきが生まれた。
危険度は一から五までであらわされる上、危険度五は非常に珍しいため、みんなの騒めきの理由は理解できる。
ユキの第一魔法〝
私は隣の席へと戻ってきたユキの手を取り、動揺して〝
ちなみに何故かは分かってはいないが、ユキの魔法は私には何の影響もなかったりする。
甘野先生は教室の騒めきを全く意に介さず、淡々と自己紹介を進めていった……。
やがて全員の自己紹介が終わると、今度は四人集まって班をつくるように言われた。
初回の迷宮探索の授業から、しばらく一緒に行動するメンバーになるそうだ。
最終的には、最大六人の班で迷宮へと挑むこととなるが、五月末までは各班に外部の迷宮探索者二名が引率としてついてくれることになっている。
「ミコトちゃん、ごめんね」
「ユキのせいじゃないよ。私の魔法は攻撃も支援もできないから」
予想していた通りではあるが、危険度五であるユキと常にその側にいた攻撃能力も支援能力も無い魔法持ちの私は、クラスメイトたちから遠巻きにされ、一度も班に誘われることは無かった。
「はい、皆さん班を組み終えましたね? それでは班を組めていない天津さんと木花さん、
ショートホームルームが終わり、次の授業である迷宮探索のための準備をしていると、長身の女性と大人しそうな男の子が連れ立って近づいてきた。
私たちの側までくると、女性の方が話しはじめた。
「やあ、私は
「うん、ありがと……は、初めまして、えーと……カオルって呼んでください。第一魔法は〝
それぞれに物騒なことを言っているこの二人が、先生が言っていた同じ班のメンバーのようだ。
私とユキも簡単な挨拶をしたあと、四人で運動場へと向かうことになった。
「栂野さんとカオルさんのふたりも仲良さそうだね。わたしとミコトちゃんは家が隣どうしで、産まれたときから一緒なんだ」
「ほう、君たちも幼馴染か。私とカオルは幼稚園からの付き合いになる。私が引き寄せる霊はカオルには近づけないらしくてな、昔から一緒にいることが多いんだ。ああ、私のことは呼び捨てで構わないぞ。栂野でもフジコでも好きに呼んでくれ。ああ、出来ればふーちゃん以外で頼む」
「むぅ……ふーちゃん可愛いのに。あ、僕も『さん』はいらないですよ」
「あはは、じゃあフジコとカオルって呼ぶことにしますね。私とユキも名前で呼んでください」
私たち四人は、自己紹介を兼ねた雑談をしながら運動場へと向かうことにした。
運動場へとたどり着くと、クラスメイトの他に引率担当の魔法士と思われる制服を着ていない男女が、何名か固まって談笑している。人数は十六、七人ほどだろうか。
そんなことを四人で雑談をしながら考えていると、程なくしてクラスメイトたちも全員揃ったようだ。
魔法士の中から眼鏡をかけた女性が一人こちらへ歩いてくる。その女性は周囲を見渡して生徒が集まったのを確認すると、私たちに向かって話し始めた。
「全員集まりましたねぇ。まずは自己紹介から、私の名は
「大道寺美夜って
大道寺さんが独特な間延びしたような口調で自己紹介を終えると、隣にいたフジコが呆然とそう呟いた。
周りのクラスメイトたちも彼女が有名人だと気付いたようで、にわかに騒がしくなる。私は知らなかったが、彼女の口調も有名だったようで誰も特に反応を示さない。
私が聞いていた情報でも、例年なら三位相当の魔法士が一名と、補佐に四位の魔法士が十数名ほど斡旋されていたはずだった。
ちなみに大道寺さんが言った『従二位』と、フジコが言った『A-』は同じ意味だったりする。日本では魔法士の強さの指標は位階で分けられるが、世界的にはランクで分けていた。
ランクは、特別な功績を上げた者が任じられるSランクを最上位に、魔法の強さを基準にしてAからEまでに分けられている。魔法は大別すると強化型と干渉型の二つに分けられ、自己強化が得意な強化型がプラス、他者の能力に干渉するのが得意な干渉型がマイナスを、それぞれランクのあとに付与されることになっていた。
この世界の日本では一九三四年に位階令が公布され、本来の身分を表す位階の『正と従』が『浄と明』に改められた。
その後、
探専校の一年生である第一魔法しか行使できない私たちは、六位=Eランクに相当していた。
「それでは班ごとに集まってくださいねぇ。……まずは、危険度三以上を集めた班はどちらですかぁ?」
大道寺さんがそう言うと、すでに班ごとに別れていたクラスメイトたちの視線が、一斉に私たちに集中する。
「あなたたちですねぇ。では決めていた通りに
「はい、分かりました。トウヤ、行きますよ」
「はいよ」
「他に危険度三以上の人はいませんかぁ? ……いないようですねぇ。それでは、先ほど決めた順番で班を選んでくださぁい」
引率担当の魔法士たちが、大道寺さんの指示で動き出す。
大道寺さんの指示により来た二人は、まずは自己紹介を始めるようだ。
正確に言うと、平塚さんは近くにいる女生徒に話しかけていて此方を向いていないため、高階さんだけが自己紹介をしようとしていた。
「こんにちは、私たちが君たちの引率を担当することになります。私は
「ああ、ごめんごめん。俺は
高階さんはとても頼りになりそうだが、平塚さんはかなりチャラそうで正直言って不安だ。
そんな私たちの不安を察したのか高階さんが話を続けた。
「……こんなのでも、一応はこの探専を優秀な成績で卒業した現役の探索者。迷宮内ではそこそこ頼りになる……はずです」
「ひどいなー、アスカちゃん。まあ、俺とアスカちゃんと、あと二人の四人でパーティを組んでるんだけど、全員この学校の同期でね。ここの迷宮は俺たちにとっては庭みたいなものだから、初心者用の迷宮なんてチョロいもんさ」
高階さんは、平塚さんの軽い態度に頭を小さく振ってからため息をつくと、鋭い視線で彼を見ながら今までより少し低い声で釘をさした。
「トウヤはしばらく黙っていなさい!」
「あ、はい。すいません」
「んっ……では、まずは皆さんの名前と魔法について教えてください——」
私たち四人は、強制的に平塚さんを黙らせ、一度咳払いをして元の柔和な表情へと戻った高階さんに促され、自己紹介を行なう。
その後、危険度の高い私以外の三人は、かなり細かくそれぞれの第一魔法のマイナス効果についての質問を受けた。
高階さんは私たちへの質問を終えると、今度は自身の第二魔法について重要なことを話し始める。
「話しを聞く限り問題はないでしょう。実は私の〝
彼女の第二魔法の能力こそが、私たちの班の担当となった理由だったようだ。
「そして、〝雲鏡矛盾〟の名前通り、盾でありながら矛でもあります。ただし矛、形状は槍ですが、盾形態から槍へと変化させると単純な戦闘能力は向上するのですが、
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▼《Tips》
一九三〇年、陛下による「奉祀宣言」により皇祖である天照大御神による御告げがあったと述べられ、自らの神性を否定したうえで権力を放棄し、祭祀に専念することを宣言された。
一九三四年、新たに位階令が公布され、それまでの正と従から浄と明に改められる。これは陛下の意向により、神職の階位に沿って名付けられた。
現在では、当時の陛下に強力な予知系統の
陛下の魔法による影響は大きく、本来起こり得た食糧不足や経済危機の悪化、軍部の暴走や米国の干渉などの様々な危機は最小限に留められ、結果としてこの世界での大東亜戦争(第二次世界大戦への日本の参戦)は回避されることとなった。
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