第92話 タスマン海航空戦7
200機あまりから構成される第2次攻撃隊は遂に敵艦隊を視界に捉えた。零戦隊が上空の敵を掃討し九九艦爆が外輪の護衛艦を叩き九七艦攻が敵空母に必殺の酸素魚雷を叩き込む...はずだった。
「視認できる敵空母は3隻、周辺をあの対空戦艦4隻が固めてます」
確か敵空母は第一次攻撃隊によって3隻が撃沈確実なほどに損傷し、残りは4隻ほどだったはずだ。敵空母は傾斜しているか、飛行甲板に内側からえぐれたような被弾の穴があった。二十五番爆弾が
第2次攻撃隊の指揮官は素早くその状況から次に取るべき行動を判断した。燃料が心配だったが、残りの敵艦隊はそう遠いところには離れていないはずだ。
「一航艦攻撃隊は眼下の三隻の空母を、二航艦攻撃の内『雲龍』『天城』攻撃隊は護衛の戦艦四隻を叩け。残りは付近に居ると思われる敵主力の補足及び撃滅を行え」
第一次攻撃隊の報告に上がっていた恐ろしいほどの対空砲火を放つバケモノ戦艦はそのうちの一隻は既に炎上しており砲火を放っていなかった。第一次攻撃隊の戦果であろう。敵戦艦は接近する攻撃隊に対し熾烈な弾幕の嵐を展開した。その火箭に絡め取られ落ちていく機体も続出する。
だが第1次攻撃隊に参加した者がこの光景を見たならば随分対空砲火が弱まっていることに気付いたであろう。アトランタ級4隻は主力4空母に随伴して撤退していたし、サウスダコタ級も1隻が脱落していた。なにより第一次攻撃隊の時のあまりの戦闘の激しさにサウスダコタ級各艦の5インチ砲や40㎜機銃は砲身が溶けたり、砲身命数を迎えたり、使用者が戦死するなどして使い物にならなくなったものが多々あった。
対して本日初陣の第2次攻撃隊は既に手負いの艦に猛攻を加えた。3空母は全て海底に葬られ、4隻あった戦艦も2隻に数を減らした。そして攻撃隊が払った損害もまた多大だった。第1次攻撃隊の損耗率には及ばないものの実に3分の2にまで減っていたのだ。
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ハルゼー率いる第16、第17任務部隊の残存艦艇はひたすらに陸を目指していた。被弾した艦は置いていき足が動かせる艦のみが4隻の空母を守りつつ西進していた。
「敵編隊接近!会敵までおよそ10分」
艦隊の後方上空から迫りくる敵機に対して艦隊はもやは抗うすべは持ち合わせていなかった。わずかばかりの抵抗として火遊びレベルの対空砲火がうちあげられる。それでもハルゼーは決して怯んだりはしていなかった。彼には算段があった。
レーダースクリーンに映るもう一つの群、それが艦隊の前方から接近してきていた。その数、80以上。
「騎兵隊の登場ってわけだ。甘かったな...
先陣を切ったのは高空から侵入してきた陸軍航空隊の30機のP38だった。第2次攻撃隊の零戦めがけて急降下しながら射撃を行い、急降下性能を活かして一瞬の内に離脱した。高度差がありすぎ命中したのは極わずかだったがそれでも攻撃隊は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。たちまち編隊は乱れ、そこを突くべく王立オーストラリア空軍のP40が突撃を開始する。海兵隊のF4Fも遅れて攻撃を開始した。
50機もない零戦は倍近い敵機を相手に善戦しただろう。だが、攻撃隊を守り切ることができなかった時点で負けていた。あっという間に九九艦爆や九七艦攻が火を噴き上げて海面に激突する。
「珊瑚海の借りを返してやる、ざまあみろ!」
日本軍にとっては幸いなことに航続距離がだいぶ無理をしていたP40は早々に翼を翻し撤退を始めた。 航続距離に余裕しか無いP38は攻撃を続行し零戦相手に一撃離脱戦法で神経を尖らせる嫌がらせ攻撃を行う。それでも第2次攻撃隊の
九九艦爆が空母に降下を開始し、九七艦攻がその同胞の大半を失いながらも前進を続ける。ハルゼーも呆れを通り越して初めて敵ながらもその精神に敬意を抱いた。それでも真珠湾を騙し討ちし多くの仲間達を殺した奴らに向ける慈悲なんてものはない。
翼をもぎ取られ、あるいは
そのうちの今にも翼から炎を噴き上げている敵機が機首をこちらに向けた。
「まさか、自爆するつもりか!?狂ってやがる!」
エンタープライズは間もなくその巨体を燃やし尽くすかのような火災に見舞われた。ハルゼーは爆発の衝撃で意識を失った。僚艦のハンプトン・ローズが濛々と黒煙を噴き上げていた、ヨークタウンも同じであった。
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