第91話 タスマン海航空戦6

「第二次攻撃隊、発艦します!」


山口の二航艦では第一次攻撃隊の帰還を待たず第二次攻撃隊の出撃を決定した。小沢の一航艦から退避してきた機体も補給をさせて出撃させるため大編成となっていた。四空母炎上の報が山口の耳に届いたのはその時だった。


「小沢さんは大丈夫なのか?」


奥宮に山口は聞く。ちなめに奥宮正武少佐の妻は山口の妻の妹であり奥宮が戦艦無用論を主張していて山口もそれに賛同していたから個人的にもつながりがあった。


「一応火傷はしたそうですが艦隊指揮に問題は無いそうです」


主力の宝龍型四隻が使えなくなった今、残るのは飛龍、蒼龍、そして二航艦の雲龍型六隻である。今回の敵の攻撃は一航艦が受け止める形となったがそれが壊滅した今、攻撃の矛先は二航艦に向けられるであろう。


「そうか...。頼んだぞ」


山口は上空で編隊を整えている第二次攻撃隊に目をやった。彼らが敵艦隊を無力化するかどうか、彼らの戦果にFS作戦の成否が左右されるだろう。山口は自分では何もできない無力感に苛まれつつも、そう呟くのだった。


〈第一航空艦隊第二次攻撃隊〉

『蒼龍』零戦8機 九九式艦爆10機 九七式艦攻 10機

『飛龍』零戦8機 九九式艦爆10機 九七式艦攻 10機

計52機 艦戦16機 艦爆20機 艦攻20機


〈第二航空艦隊第二次攻撃隊〉

『雲龍』零戦8機 九九式艦爆10機 九七式艦攻 10機

『天城』零戦8機 九九式艦爆10機 九七式艦攻 10機

『蛟龍』零戦8機 九九式艦爆10機 九七式艦攻 10機

『葛城』零戦8機 九九式艦爆10機 九七式艦攻 10機

『笠置』零戦8機 九九式艦爆10機 九七式艦攻 10機

『阿蘇』零戦8機 九九式艦爆10機 九七式艦攻 10機

計168機 艦戦48機 艦爆60機 艦攻60機




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ワスプ、ホブカークスヒル、レンジャーは持ちそうにありません。スプルーアンス提督については負傷したものの生死に別状はないようです」


報告を聞いてハルゼーはうなだれた。攻撃隊にF4Fを割きすぎたのがいけなかったのか。自沈秒読みとなった3隻の空母の周りを無数の救命ボートが漂っていた。駆逐艦が接舷し生存者の収容を行っていた。悲壮感が顕になっていた第17任務部隊司令部に吉報が届いたのはその時だった。


「第1次攻撃隊後続隊より通信!『敵艦型不詳大型空母4隻撃破、大破炎上中』」

「そうか...」


先ほどとは打って変わってハルゼーは勝機を取り戻したことを確信した。敵空母は最大で12隻、そのうち大型の4隻を撃破したとなれば残るはヒリュウ型空母8隻、同級は艦載機数が50機前後であり相当数を先程の戦闘で消耗している。


対するこちらはまだ4隻の空母(ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネット、ハンプトン・ローズ)が残っている。内ヨークタウン及びホーネットは被弾または被雷、あるいはその両方の損害を受けていたが戦闘応急班の必死なダメージコントロールが功を奏し既に艦載機の発着艦が可能なまでに回復していた。


ハンプトン・ローズは艦橋を失ったものの他に大した損害を受けていなかったため直ぐに舵を直接操作に切り替え立ち直っていた。奇跡的に副艦長が艦橋を離れており指揮系統が僅かながらも残っていたからだった。そして幸運艦エンタープライズは無傷だ。


「SBD偵察小隊より報告『先程攻撃隊が攻撃を行った敵艦隊より北西20マイルの位置に新たな敵艦隊を発見、空母6、巡洋艦6、駆逐艦多数』」


「....使える機体はどのぐらいだ?」


「飛行不能機を除いた数としてヨークタウンに40機、本艦に60機、ホーネットに50機、ハンプトン・ローズに50機あまりです。だいたいF4Fが130機にSBDが60機ほどです」


「全て攻撃隊にまわせ」


「全てですか!?」


「そうだ全てだ。我々にはサウスダコタ級がある。最悪対空砲火だけでなんとかするしか無い。発艦次第4隻の空母は全速で後退。サウスダコタ級は3隻の護衛に残せ。それに護衛空母もあるだろう」

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