第90話 タスマン海航空戦5
クラレンス・マクラスキー少佐率いるSBDドーントレス50機は遂に敵艦隊の内輪に突入、熾烈な対空砲火の迎え火で多数の機体を失いつつも敵空母へ急降下を開始した。
「もっと数があればな、クッソ」
敵は空母六隻、そのうち四隻はアカギやカガ並の新型大型空母だ。だが残り40機程しかない攻撃隊では全てを叩くことはできない。だか無いものに文句は言えない。六隻のうちの大型の四隻を10機づつで叩くことを決めた。
敵弾にやられ更に数機が制御を失って墜ちていくが部下の死を悼む時間と余裕はマクラスキーにはなかった。後部座席の爆弾手が1000ポンド爆弾を切り離したのを確認し、ダイヴブレーキをめいいっぱいに展開させ機首を上げる。
部下の後続機も無数の敵艦から雨あられと撃ち出される火箭を回避しながらそれぞれ爆弾を投下していく。海面すれすれで低空飛行に移ったとき、爆発音が響き風防に赤い光が反射した。後方の敵空母は甲板から爆炎を噴き上げていた。他の大型空母3隻もともに炎上している。
九九艦爆が運用する250㎏爆弾に比べて1000ポンド(450㎏)爆弾の威力は絶大であった。たった数分で4隻の空母が大破炎上、戦闘不能になり海上に浮かぶ鉄屑に変わり果てた。
「やったか...」
歓喜に湧くマクラスキーの脳天を、いやSBD爆撃機自体を10cm高角砲弾が撃ち抜いたのはその直後であった。
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「司令!司令!大丈夫ですか!」
小沢は混沌とした意識の底から矢野の声で現実に引き戻された。
「ああ、少し頭を打ったようだ。問題ない...。被害は?」
艦橋に居る者のうち動き回っているのは半数ほどで、残りの半数は既に原型を留めていないか倒れていた。矢野も額を血に染めている。左頬の火傷をさすりながら、小沢は矢野に引っ張られ立ち上がった。
「宝龍、神龍、鶏龍、海龍が被弾炎上、うち鶏龍については通信が途絶しています。あの様ですから艦橋が吹き飛ばされたと思われます」
小沢は窓ガラスが全て砕け散って開放式になってしまった宝龍の艦橋から左側を航行する艦橋の無い盛大に黒煙をあげ炎上している艦を見つけた。
「本艦は2発の爆弾を喰らい、飛行甲板は見ての通り使い物になりません」
小沢は少し咳き込む。現在進行系で艦橋は被弾箇所から燃え上がる煙の直撃を受けていた。戦闘応急班が必死で弾薬庫に火が回るのを防いでいた。第二次攻撃隊の機体は上空退避させたのが功を奏し艦載機やその爆弾への誘爆は防ぐことができた。
元加賀の乗員が多く配備されている宝龍の乗組員達にとってハワイ作戦での加賀の有り様は記憶に新しいことだった。四隻の空母は共に航空機運用能力は失ったものの航行に支障はなかった(鶏龍は艦橋を失ったため舵を直接操作に切り替えるのに時間がかかったが)。
「敵空母5隻、戦艦1隻を撃破、うち空母3隻は沈没確実」
その戦果は疲弊しきりながらも消火救助活動にあたる乗員達にも届き、艦内では早くも被害から立ち直ろうとしていた。
攻撃隊の収容は大丈夫か?。
火災が鎮火し終わった後、小沢はそう考えていた。200機の攻撃隊は他の艦には収容しきれないかもしれない。その答えは皮肉にも攻撃隊の帰還機数が出撃時の半分になっていたことで解決したのだった。
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