第86話 タスマン海航空戦1
「そろそろ敵艦隊が見えてもおかしくないんだがなあ...」
高橋は辺りを見渡しても敵艦隊が見えなく暇になったので操縦席の三神に話しかけた。
「おい、ちゃんと警戒しとけよ。油断はよくないぞ」
九九式艦爆には悲しいことながら自動操縦装置はついていない(当時の自動操縦装置とは高度の維持と直進だけを行なう簡素なもので直接操縦桿などに取り付けるタイプ)。なので三神は気を抜けないのだ。
「はいはい」
高橋も諦め再び上空警戒を続ける。近くに熱帯低気圧があるらしく空は雲がかっており、敵機がそれに乗じて襲撃してくる可能性は十分にあった。そして、風防にチカリと何かが反射したのを三神は気づいた。高橋もそれを察し上空を睨む。案の定、雲の隙間から黒点が幾つも出てきているのが分かった。
「敵機直上!」
レシーバーに向かって高橋は叫ぶ。直ぐに編隊指揮官から直掩零戦隊に指示が伝わり、零戦が次々と上昇していくのが見えた。
「敵も電探を使っているのかもしれんな」
三神はボソッと呟く。こちらの視認外であるのにも関わらず敵機が迎撃に来たということは電探でこちらのことを察知していたのだろう。つまり敵艦隊と攻撃隊はそう離れてはいないはずだ。三神が指揮する葛城攻撃隊の零戦が翼を翻し敵機との交戦を開始していた。
他の隊の零戦も波状攻撃をしてくる敵機と砲火を交えていた。ざっと見ただけで敵機はこちらの零戦の1.5倍はいるようだ。敵戦闘機の数が異様に多いことについては考えるのを放棄した。零戦の性能なら1.5倍ぐらいの敵なら互角以上に戦えたかもしれないが二航艦攻撃隊の零戦は60機程であり同数の攻撃機や爆撃機を守らないといけない点で圧倒的に不利だった。
それでも零戦隊は必至にF4Fに戦闘を挑み我が身を盾にして攻撃隊を守ろうとした。だがF4Fも負けじと数を活かして一撃離脱戦法で零戦を少しづつ削っていく。零戦も2機1小隊を新たに採用しており、決して有利ではない立場でも奮戦していた。しかし数はものを言った。
零戦の迎撃を突破したF4Fが九七式艦攻や九九式艦爆に追いすがり12.7㎜機銃をぶっぱなす。どちらも既に3年以上前の設計であり鈍足で機動性も悪かったが必至に回避運動を行なう。
九九式艦爆はそのすべてが発動機を金星発動機に変換された新型のニニ型に更新されており一一型に比べて40km/hの速度向上を果たしている(米軍のドーントレス爆撃機は同程度の速度で倍の爆弾を搭載することが出来た)。その為、次々に落とされる97式艦攻に比べて99式艦爆はその減り具合が少ないようにも見える。
「16番機、撃墜!」「7番機、失速、応答なし!」
だがレシーバーの悲鳴が示すように戦闘機を前には97式艦攻も99式艦爆も等しく墜とされていった。その時、前方の海面に灰色のゴマ粒が見え始めた。
「左前方に敵艦隊!」
空母が7隻、戦艦が4隻、護衛艦が多数、米軍の本隊だ。1隻を除いて7隻の空母はどれもヨークタウン級に酷似している。その1隻は両舷に煙突があることから軍縮下で建造された空母レンジャーだろう。そして残る6隻のうちの小ぶりなのがワスプ、他はヨークタウン級だ。三神は飛行隊員の間で広く流通している各国の空母についての冊子の写真を思い出していた。
三神の葛城攻撃隊は二航艦攻撃隊長の指示により二列に並んだ敵空母の右奥のヨークタウン級を叩くことになった。そうしているうちにも外縁の駆逐艦や巡洋艦を衣笠と雲龍の急降下爆撃機隊が叩き、敵艦を火炙りにし、熾烈な対空砲火に亀裂を入れていった。徐々に姿を大きくする敵戦艦を凝視している内に三神は異様なことに気づいた。
「あの戦艦、主砲塔がないぞ...?」
その時だった、黙り込んでいた敵戦艦が咆哮したのは...。
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