タスマン海海戦

第83話 索敵1 in タスマン海


8月26日、午前11時


空は澄んでおり、上空のF4Fがくっきりと見えた。ウィリアム・ハルゼーはエンタープライズの艦橋でため息をついていた。元々、性格的に猪突猛進タイプで守りに関してはあまり執着がなかった。だが、今回の作戦でニミッツはこう言った。


「いいか、敵の航空機が底をつくぐらいまで守りに徹しろ。攻撃は敵が疲弊してからだ」


数で劣る側は攻撃か防御の取捨選択しかできないのだが、今、第16、第17任務部隊、の艦載機を見ただけでそのどちらかを選んだかが分かる。


艦隊の空母は 「ヨークタウン」 「エンタープライズ」 「ホーネット」 「ボブカークスヒル」 「ハンプトン・ローズ」 「ワスプ」 、いずれもヨークタウン級とその改良型、縮小型だ。


ヨークタウン級及びホーネット級は90機、ワスプは80機の艦載機を搭載しており計530機にも及ぶその内の400機強がF4Fである。そして残りは殆どがSBDドーントレスだ。


ハルゼー率いる第17任務部隊(エンタープライズ、ホーネット、ハンプトンローズ)とスプルーアンス率いる第16任務部隊(ヨークタウン、ボブカークスヒル、ワスプ)の編成はスプルーアンスの空母が訳アリなのが分かる。


ヨークタウン、ボブカークスヒルは共に珊瑚海海戦で瀕死の損傷を負ったがサンディエゴの工廠で当初5ヵ月と言われていた修理期間を24時間体制の修理工事もあって5週間で終わらせた。あくまでも応急的なものなので航空機運用能力に支障は無いが乗員の居住環境には目をつむっていた。


そのため、他の空母よりも戦闘継続力が多少低下している。残る「ワスプ」は軍縮条約内で割り当てられた排水量に無理やり多数の航空機を積むべく設計されたため防御力が護衛空母並みしかない。前任者のフレッチャーのせいでこんなことになってしまったのだが案外スプルーアンスは気にしていなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




山口多聞、第二航空艦隊司令官は旗艦「阿蘇」の艦橋に居た。

阿蘇は第三航空艦隊の中でも就役したばかりの雲龍型だ。山口の第二航空艦隊はニューカレドニア、フィジー、サモア、バヌアツの攻略を、小沢の第一航空艦隊はブリスベン、キャンベラへの攻撃を担当していた。


第一航空艦隊の後陣には長門、陸奥が控えているのでオーストラリアに降伏を迫った後、応じなかった場合はブリスベンを艦砲射撃で吹き飛ばす算段だった。ただ、これらの戦艦は速力が機動部隊に追従できないので祥鳳型軽空母の護衛の元、航空艦隊とは別行動となった。


FS作戦の指揮官は第一航空艦隊の小沢治三郎であるが第二航空艦隊は本隊と距離が離れているので山口にとってはあまり関係ないらしい。


山口はそんなことを考えながら飛行甲板に駐機している二式艦偵を見ていた。液冷エンジンを採用した冷戦並みの速度を誇る新型艦上爆撃機の試作増産機である。山口は航空参謀が液冷エンジンの整備がドイツの機械でとても楽になったと話していたのを思い出した。


昔は潜水艦乗りだったこともありドイツの技術は凄いと思っていたが、やはり帝国の技術がドイツに数歩遅れをとっており、米国には更に遅れていると考えると悲しくなる。


FS作戦は本格的な外洋作戦なので航続距離の短い潜高型の支援は受けられるはずがなく、基本的には艦上機の偵察が要になるので早々二式艦偵を飛ばすのだ。二航艦が飛ばす二式艦偵は各艦3機づつの18機、これに加えて阿賀野型の一式水偵24機も加わる(一式水偵は航続距離が短いが、爆弾の代わりに増槽を搭載すれば零式水偵程の航続距離を確保できる)。


敵は豪軍の方は駆逐艦と巡洋艦数隻のみであり脅威に値しないが、米軍はヨークタウン級の正規空母が2、3隻(珊瑚海の分は除く)稼働できるはずだし大西洋艦隊のレンジャーとワスプが太平洋艦隊に移動したとの情報もあることから少なく見積もっても3、4隻の正規空母はいるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る