第82話 海軍情報部

シェラレン・キャサリンは今日もため息をつきながら机に向かい、世界中から集められた情報(文章が多いが、まれに写真もある)を分析する。海軍情報部には今日もたくさんの情報が届く。キャサリンが憂鬱なのは日本海軍の空母についての情報だ。


「これは、ウンリュウ改飛龍クラスよねえ」


つい先月、ダッチハーバーを空襲した日本軍の機動部隊の写真だ。諜報部の通信傍受によると日本海軍はヒリュウ型空母を量産していることが判明している。


だが、1937年ごろの日本海軍の軍備計画である③計画では政府に対し1億円級の戦艦2隻、8000万円級の空母2隻を予算計上しておりウンリュウクラスの計画は何処にもない。


しかし開戦半年以上が経つが8000万円級(予算的に二万五千トンクラス)の大型空母を目撃した例は一度もなく、日本の通信にもそのような艦は登場していない。それは1億円級(予算的に四万五千トンクラス)の戦艦二隻も通信や目撃例が無い。


つまり軍備報告をおそらく外部に向けて偽装しているのだ。ではその3億6000万円を何に使ったのか。それこそがキャサリンの悩みだ。


現在、ウンリュウクラスは六隻が確認、目撃されておるが、空母ヒリュウと同程度と見積もると六隻で2億4千万円、つまり後1億2000万円(三隻分)の予算があるのだ。


最大で九隻とされるウンリュウクラスに対して合衆国は五隻のヨークタウン級、ホーネット級とワスプ、レンジャーの七隻の正規空母しかない。更に日本海軍の四隻の謎の空母の問題もある。少なくとも3万トン以上とされる大型空母が四隻も一気に出現したのだ。


日本が既存の戦艦を空母に改装した可能性が高いが、四隻の空母は日本のイセ型やフソウ型よりも全長が大きく、もしそのように改装するにはコストがかかりすぎるためありえないという意見が大半を占めておりそれにはキャサリンも同意だった。まさかそのまさかだとはキャサリンが知る由もない。今のところアメリカ人には理解ができていなかった。


「すいません、部長。対独統括部がこの写真について意見を伺いたいと。建造中の超大型航空母艦オイローパ級に関連していると思わ...」


同僚の一人が部長に写真を手渡そうとしていた。すかさず奪い取る。


「ごめん、ちょっと見せて」


それは周りの建物が飾りに見えるほどの大きな船渠ドックを写したものだった。船渠の中に横たわるその巨体は並のものでは無いことを物語っていた。


「あのー、ちょっと...」

「いいから、続けて」


キャサリンを前に呆れる同僚に部長は話を続けるよう促す。


「対独統括部曰く客船ブレーメンかオイローパを改装しているものと睨んでいるそうですか、何より読み取れる情報が少なくて...、どこで撮られたものかなかなか判明しないそうで」


写真は船渠の中の艦を中心にして撮られており画角的に周りの景色が写っていなかった。ただ支柱や足場などの構造材がドイツで使われているものに近いものらしく、枢軸圏なのは間違いなさそうとのことだ。


「ドイツにこんなデカブツを置ける船渠なんかあったか?」


「ブレーメン・ウェザー造船所に唯一この程度の大型艦を収容できる船渠があるのですが、船渠の形がそれとは似ても似つかないらしく、そこが部長なら何かわかるのではと」


「ふん、そういえば対独統括部長はアイツだったな、面倒くさいものだけ押し付けて、まったく....」


3人で写真を覗き込んでいると、キャサリンはふと、あることに気付いた。


「この船、なんで艦首に窪みがあるんでしょうか。まるで丸い何かをはめるためにあるみたい」

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