第81話 太平洋艦隊司令部

ニミッツが憂鬱なのは日本海軍の2線級部隊が第17任務部隊を打ち破ったからでも、ポートモレスビーが陥落したからでもない。

問題は正規空母12隻から成る日本艦隊だった。日本の暗号はこちらに筒抜けなので、最近は真珠湾で打撃を受けた諜報部も立ち直り、日本海軍の情報収集を積極的に行っていたが、そこから分かったことは最悪だった。


今まで、日本が空母ヒリュウの小改良空母を量産していることは開戦前の諜報活動でわかっていたし、真珠湾攻撃にその空母が四隻使われたことも把握していたが、なぜか開戦後、どこからともなく別の四隻の大型空母が現れたことが諜報活動で判明していた。


少なくとも改ヒリュウ型を上回る排水量と搭載機数ということだけは判明したが、なかなか前線に現れないため詳細がわからなかった。それがはっきりしたのはミッドウェー島陥落時にカタリナ飛行艇が撮影し、運良く持ち帰れた写真のおかげだった。写真ではヒリュウ型の空母2隻の後ろに4隻並んで写っていたが、そこから推測されたのは全長250m、艦載機数70前後というものだった。


日本の航空機は合衆国機のように主翼を折り畳めないので同規模の空母では米軍の方が艦載機数が3割ほど多い。だが、12隻もの空母は米軍の現状の戦力ではどうすることもできない。更にこの12隻は開戦前から知られていたアカギや、マレー沖で猛威を振るったジュンヨウクラス、リュウホウクラス、珊瑚海で善戦したトカチクラスを抜いた数なのだ。


幸いにもこれらの戦力は本土防衛を気にしてか、本土近海に留まっているようだったが、彼我の戦力差は依然として離れていた。諜報活動では日本軍が豪州への上陸及びサンタクルーズ諸島への侵攻を近々行う予定であることが判明しており、珊瑚海海戦やミッドウェー撤退などこちらが先に察知できる点は戦略的にも戦術的にも強かったが、かといってその利を活かせる戦力が不足していた。


豪州には真珠湾が機能を失って以来、合衆国の工業力で中規模軍港にまで拡大した連合軍の海軍拠点であるブリスベン、潜水艦基地があるパース、ソロモン諸島に基地を造った日本軍に警戒して最近大拡張がなされたニューカレドニアの航空基地など合衆国にとって今後の反抗作戦に重要な要所が集中していた。


だが、合衆国にとって必要なのは時間だ、それも太平洋艦隊が戦力を再建できる時間が。


「ワスプとレンジャーについて、太平洋艦隊からの編入の許可を海軍省から頂きました」


太平洋艦隊司令部の情報参謀であるマクモリスが言う。


「そうか、少しはマシになるといいが」


米空母は艦載機数が多いので航空機の数でいったら基地航空隊も使えるこちら側の方が有利だ。だが、それでも正規空母12隻は大きなアドバンテージだ。ほんと、日本軍はいつのまにこんなに大量の空母を揃えていたのか。


最近の諜報活動で日本が計画している4万トン級の16インチ砲搭載艦が誤報だったことが分かり、合衆国もアイオワ級、モンタナ級の建造を取りやめた(とはいっても元からサウスダコタ級の建造がその18インチ艦に対抗できないとして空母の増産に力を入れていた関係で真珠湾攻撃を機に中止になっていたのだが)。


「敵はニューカレドニア、サモア方面とキャンベラ方面への同時侵攻を仮定しているようですからどちらか一方に戦力を振れば撃退はできるはずです」


「それもそうだが...」


まあ、オーストラリアを見捨てるわけにもいかないので必然的にオーストラリア方面に機動部隊を配置しないといけない。そうなるとガラ空きのニューカレドニア、サモア、フィジーなどが敵の手に落ち、豪州に補給が入りにくくなり、退路を塞がれて自滅する道しかない。ニミッツが考えているのを見て、マクモリスは閃いた。


「なら、いっそのこと、オーストラリアを囮に使いませんか?」



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