第80話 作戦会議2

「と、言いますと?」


井上のせいラフな雰囲気になる。これが山本であるから許されるが、一介の中将が発するべき言葉ではない。


「東條内閣時に総力戦研究所は日米戦争のシュミレーションをしていたのだが、その結果を会議で内閣は公表した。結果は緒戦では勝利を納めるものの長期戦になり最終的には帝國が敗北するというものだった...。この戦争、終わりがあるだろうか?」


井上は知米派なので米国の底なしの工業力と不屈の精神を知っている。少なくとも国力だけを見れば米国がほんきをだせば日本なんて赤子の手を捻り潰すように跡形もなく消し去ることもできるはずだ。


「戦争の結果を予測するのは難しい。日露戦争のように絶対負けると思われていた側が勝利することもあるかもしれないし、個々の戦闘の勝利が戦争の勝利に繋がるかもしれない。だが、国力というものには決定的に戦争を左右する。誰だって小国が超大国に真っ向から挑んでも勝利できないのは分かることと同じようなものだ。会議では戦争の終結の手段については述べられなかったが、各軍、政府がその道を探ることを積極的に行なうことは決定した。で、方向性としてはハワイ、そして米本土方面に勢力を広げ米国を揺さぶることになった。あの国は国民の意見で国が動くからな、ルーズベルトとはいえ大衆が日本軍の脅威に停戦を要求すれば講和しないわけにもいかないだろうし。その米国民の民意を揺さぶる目的と、軍令部が前々から恐れていた豪州からの航空戦力の北上の可能性を潰すため、FS作戦を行なうことが決まったというわけだ。」


要するに連合艦隊司令部の要望を押し通したのでハワイ方面に侵攻することも決まったが、軍令部の要求も無視できなかったので政府の意向に沿う形になったのだろう。


しかし、井上の第四航空艦隊は半数の空母と7割近い搭乗員を珊瑚海海戦で失ったためFS作戦への参加は出来ない。特に造船所は新造艦の建造で手一杯なので損傷した3隻の十勝型の修理に相当な時間がかかりそうだった。搭乗員も次々に竣工する雲龍型に人手を取られており軽空母に搭乗員が補填されるのも時間がかかりそうだった。結果こそポートモレスビーを攻略できたものの井上に対しては海軍内で批判も上がっていたし、天皇陛下にも


「井上は学者だから戦にはむいてない」


と言われた程である。だが、天皇陛下はこうも付け加えた


「しかし、学者であるからこそ決して優勢ではなかった戦力で敵艦隊を撃破することが出来たのであって、そこは賞賛されるべきことである」


と。このお言葉のおかげで井上批判は鳴りを潜めていた。天皇陛下様様である。


「FS作戦はフィジーとサモア、バヌアツを攻略し、米豪遮断をするものだが、やはりその間に本土に敵が来ると厄介だ。陸軍は活躍の機会のない戦車師団を使いたいらしくてな、ちょうどいいので、米機動部隊が我々に挑まざる終えない状況をつくるよう、同時にキャンベラに強襲上陸を仕掛けることになった。」


ん?ん?んんん....?は?キャンベラってオーストラリアの首都ですよね?遂に長官は狂ってしまったのか....。最近、いろいろあって疲労溜まってるだろうしな、うん、たわごとだ、きっと。ん?


「「はぁ!?」」


皆、揃って思わず声をあげる。山本はしけた顔をして、それを咎めてから話を続けた。


「まあ、驚くのは無理もない。私も聞いた時は驚いた」


黒島は山本が会議でそれを聞いた時、なんとも間の抜けた顔をしていたことをしっているが、ここで言ったらキレられるので流石に言わない。


「作戦は今後司令部で詳細を詰めるが、英、豪軍の基地航空隊と米軍の空母機動部隊の抵抗を受けることになる。一筋縄ではいかぬ。...だが、こちらには奇策があるのでな、いい戦いになるだろう」

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