南洋の死闘 

それぞれの考え

第79話 作戦会議1

6月末、井上は1ヶ月半ぶりに内地の海軍省に来ていた。ポートモレスビー攻略が一段落したのと第2艦隊、第4航空艦隊が大損害を受け、当分は戦力の回復に務めることになったので井上に出番はなかったからだ。


MO機動部隊はトラック泊地に帰還し損傷艦は明石型工作艦「桃取」の応急修理を施された後、内地の工廠に向かった。内地の工廠は新造艦で手一杯のためシンガポールのセレター軍港に回された艦もあった。結果的に金剛は乗員の浸水との奮闘の結果、艦首を大きく沈めていたが自力航行が可能なまで修復され、霧島も大破大炎上していたが占領したニューギニアの浜辺に座礁させることで沈没だけは回避された。比叡は轟沈したが榛名は無傷であった。

霧島は座礁した後もさんざん燃えて現地住民と部隊を総動員で消火を行い3日かけて鎮火した。上部構造物は可燃性のものは灰になり、鉄は溶けて船体が歪んでいた。沈没はしなかったがまた船として使えるかは別であった。


珊瑚海海戦から1ヶ月後の6月にはミッドウェー島並びにアリューシャン列島の攻略が第1、第2、両航空艦隊にて行われた。米軍は日本側の空母戦力を各個撃破する機会だったのだろうが米空母は現れなかった。それもそのはず珊瑚海海戦に参加した正規空母は瀕死の重症であり、真珠湾が使えないためサンティエゴの海軍工廠に回航しなければならず、日本の潜水艦が張った哨戒網を突破するのは容易ではなかったからだ。


本土空襲に参加したエンタープライズとホーネットだけでは6隻もの空母からなる日本の航空艦隊には立ち向かえなかったのだ。





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「今後はFS作戦を主として行なうことになった」


連合艦隊司令部会議室で山本長官はそう告げる。

第二段作戦は作戦がまとまらないままポートモレスビーを攻略するという形に始まった。米豪遮断作戦をしたい軍令部、インド洋に攻勢を仕掛け大陸打通作戦を陸軍と共同で行いたいドイツとの協調路線の海軍省、早期決戦を目論むべくハワイ、そして米本土に攻勢を仕掛けたい連合艦隊司令部、3者の方針が決定的に違ったことでとりあえず最初はどれも行うことになった。ポートモレスビー攻略、ミッドウェー、アリューシャン攻略、セイロン空襲などなど。


だが、連合艦隊司令部、通称GF荘ではまたしても井上が知らない間に話が進んでいた。


「それは軍令部の決定事項ですか?」


井上が訪ねる。


「いや、違う。大本営、ひいては政府の方針だ」


まあ井上は元より基地航空隊を中心とした飛び石作戦を戦前から主張していたのであながちFS作戦はまんざらでもない。山本は話を続ける。


「MO作戦やMI作戦が行なわれているころ、東久邇宮内閣の元で海軍省、陸軍省、そして内閣、大本営の4者で今後の作戦行動についての協議が行なわれたのだが、どうも陸軍の連中は本土防空体制や防空の方法そのものを見直すことに躍起になっていて、東久邇宮首相が割と陸軍に圧力を欠けていたことで口を挟まなかったのだ。その会議は作戦というよりもその先が戦争終結に向かうことも含めて行なわれたのだが、いずれにせよ豪州を戦争から脱落させることは道中に必須の為、決定された。まあ、政府が総力戦研究所のシュミレーションを公開したことが大きかったがな」


東久邇宮稔彦王とは湯沢臨時内閣の後に正式に発足した内閣である。自由主義者の皇族が首相になることは今後の対米交渉などにおいて有益なことだとされたのと東久邇宮が陸軍軍人なので強硬派の意見も十分に皇族の力で押さえられるからである。総力戦研究所とは内閣直属の戦争遂行の分析機関である。

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