第78話 速射砲、新戦艦を粉砕する


「射撃指揮装置損傷、3番砲塔射撃不能!」

「光化学照準器損傷、照準が出来なくなりました、予備に切り替えます。....ダメです、予備も損傷した模様!」


ノースカロライナのCICに入ってくる報告はどれも悲惨なものであった。艦は健在なのにもはやノースカロライナは戦闘能力を失い、海に浮かぶ戦艦の形をしたオブジェになってしまった。副砲の何基かは健在だが大本の射撃指揮装置が壊れたため対空戦闘も期待できない。


リーは足を止めている敵1番艦、旗艦と思わしき艦を睨んだ。あと一斉射で止めをさせるはずだった。だがノースカロライナが戦闘能力を失った以上、戦域に留まるのは危険だ。


ノースカロライナは変針し離脱を図った。リーは戦闘中に旗艦を変えるとかできないのでそのまま退場となった。なにより被弾でノースカロライナの無線機器が使用不能になっておりもう指示が出せなかった。


一方のワシントンは敵3番艦に対して夾叉を得ていた。ワシントンは3式弾の被弾で1番砲塔の照準装置が損傷し砲撃不能となっていたが残る6門が火を吹いた。敵3番艦にいったい何発が命中したのかはいざ知らず水柱が消えたときには敵艦は早くも海面に姿を没しつつあった。


残るは敵4番艦だがこれが燃え続けている2番艦の煙の背後におりなかなか照準ができなかった。そこにきて急速にワシントンに接近する艦影があった。


第10戦隊の阿賀野型4隻である。最上型は前衛に居たので主砲の命数を消費し暴発の危険があるため離脱したが、阿賀野型はまだ命数を全然使っていなかった。阿賀野型の速射砲がワシントンに向かって火を噴く。


ワシントンを護衛していた駆逐艦10隻あまりは秋月型に拘束され阿賀野型に手出しができない。その間、ほんの1、2分の間に阿賀野型は最大装填速度で第7戦隊全体で800発余りの15.5㎝弾を弾き出していた。




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「司令、ワシントンが!」

リーもその様子を見ていた。ワシントンだけがまるで全体で花火を爆発させたように輝いていた。その一つ一つが被弾の爆発なのだ。リーは恐怖を通り越して、絶望したのは言うまでもない。





ワシントンと有り様といったらそりゃ酷いものになった。800発の全てが命中したわけでは無いがそのうちの何割かだけでも相当な打撃になったことは事実だった。

15.5㎝砲弾は一発60㎏なので半分が命中しただけで24000㎏になる。ワシントン自身の砲弾を20発喰らうようなものである。

最初のうちは(といってもほんの数十秒)ワシントンの装甲が砲弾を弾き返していたが砲弾の中には艦橋や煙突、艦尾、艦首、副砲といった装甲が薄い部分に命中したものも相当数あった。


また砲塔の外部にある照準器などは言うまでもない。装甲の薄い部分に命中した砲弾はそこを抉り、さらにまたそこに命中し、と、なんせ数が多いので戦艦の穴という穴に15.5㎝砲弾が貫通し内部を貫いた。400発以上命中すれば当然、1発ぐらいは弾薬庫に命中する。


まあ、といっても弾薬庫が誘爆し轟沈する前に上部構造物はすべて吹き飛んでいたし、艦首から艦尾まで水平装甲が切り刻まれた様になっており、ボロ雑巾のような見た目になっていた。


居住区画なんかはもう消滅していた。ワシントンの生存者はあれだけ大きな艦にも関わらず一人もいなかった。


夜戦の敗北を受けてフレッチャーは作戦中止命令を出し、第17任務部隊の残存艦艇はメルボルンに撤退した。


5月6日、2万からなるMO攻略部隊輸送船団の陸軍師団及び海軍陸戦隊は戦艦榛名、そして最上型四隻からの艦砲射撃の洗礼を受け壊滅状態だったポートモレスビーに上陸、僅かに抵抗した豪軍現地守備隊を粉砕し、残存部隊はビクトリア山に立て篭もったが、ラエ方面から陸軍が攻勢をかけこれを包囲、5月中にニューギニア島全域の掌握に成功した。

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