第76話 金剛型VSノースカロライナ級3
「霧島、被弾!」
「通信反応なし!」
金剛の艦橋から後方は死角だが後部羅針艦橋の見張り員の報告は艦内電話で直ぐに届く。
近藤にとってこのぐらいの犠牲は覚悟の上だった。霧島は当たりどころが悪かったのだろう。あるいは沈んでいないだけ幸運なのかもしれない。
だが、敵1番艦の砲撃が金剛からかなり逸れた所に着弾したのを見て、近藤はほっと胸を下した。
こちらの三式弾による執拗な攻撃が功をそうし射撃指揮装置、あるいは観測装置やレーダーなどを損傷させたのかもしれない。
敵戦艦がノースカロライナ級と判明した時点(今から数時間前)で近藤は三式弾による攻撃を決意していた。35.6㎝砲弾で対14インチ砲弾装甲のノースカロライナ級の垂直装甲は抜くことができないが逆にノースカロライナ級はどの距離でも金剛型の垂直装甲を抜ける。
水平装甲なら遠距離からなら砲弾が角度を持つので抜けたが観測機が使えない夜間では遠距離砲撃は当たらないに等しい。これはまともに撃ち合っても有効打を得ることができないままこちらが一方的に翻弄されることを意味していた。
2対4であっても数よりも質を極めてきた大砲屋の軍艦達を指揮する近藤は5㎝の砲弾直径の違いが戦闘に決定的な差を生むことを理解していた。だから真珠湾攻撃時になんとなく閃いた三式弾の対艦使用を決めたのだ。
三式弾は榴散弾でバイタルパートを貫通することはもとより通常装甲を貫通することもできないがその無数の散弾で照準装置や射撃式装置、レーダー、測距儀、そして比較的装甲が薄い高角砲塔などを損傷させることができる。
1発の子爆弾を被弾しただけではそれらの機器は大丈夫かもしれないがつづけて何発、何十発と被弾すればその能力を奪うこともできる。それらの機能が使えなくなれば砲塔が健在であったとしても艦は戦闘能力を無くすのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
金剛型の第3戦隊が敵戦艦と死闘を繰り広げているころ、第7、第10戦隊は敵巡洋艦部隊と交戦していた。重巡3隻の内、2隻は第一夜戦の手負いの艦でありもう1隻は豪軍のものだった。
軽巡4隻は全てブルックリン級だった。対する日本側は最上型、阿賀野型各4隻の超速射砲軽巡である。
指揮権が雑多でまともな艦隊運動がしにくい連合軍に対して速射砲の手数と数で圧倒する日本はほぼ一方的にこれらを駆逐した。
ブルックリン級は建造目的であった最上型と砲火を交える機会を得たものの当の最上型は主砲を速射砲に変え、狂気的な砲弾の分間投射量を誇っており軍縮条約に絞られた装甲しか持たないブルックリン級に対して条約違反の設計の最上型はありとあらゆる面で優れていた。重巡に関してもそれらは手負いであり阿賀野型が相手をしていたが最上型がブルックリン級を掃討しそちらに砲門を向けたことで数十発の15.5㎝砲弾を浴び鉄屑になった。
豪軍の巡洋艦は米軍とうまく連携行動がとれないまま速射砲の集中砲火を浴び海に没した。前衛だった最上型の三隈や熊野などが被弾したものの戦闘行動に支障はなかった。誘爆の危険性がある魚雷発射管を主砲変装時に撤去したおかげかもしれない。駆逐艦は砲火力が圧倒的な秋月型が第四航空艦隊から連れてきたのも含め12隻もいたため敵駆逐艦は一瞬で掃討された。
そもそも米軍は真珠湾で数多くの駆逐艦を失ったため満足に配備できる状況ではなかった。ノースカロライナのリー少将が気づいた時には既に時遅く、半分以下に数を減らされた駆逐艦が2隻の戦艦を護衛しているだけになってしまっていたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます