第二夜戦

第73話 第二夜戦開幕

第二艦隊司令の近藤信竹中将と第四航空艦隊司令の井上成美中将は正直あまり中がよろしくなかった。すなわち近藤が大艦巨砲主義者の艦隊派なのに対し、井上は航空主兵論者の条約派なのである。

海軍左派三トリオの山本、嶋田、井上が日独伊三国同盟に反対したのに対し近藤は親独派で賛成していた。そんな近藤が頼みの綱になっている今の状況にはっきりいって井上はうんざりしていたのだがそれはまた別の話である。


米機動部隊の第2次攻撃隊を凌いだ第四航空艦隊は残る稼働機を使って第2次攻撃隊を発艦させた。だが、艦攻と艦爆合わせて20機もなく、敵戦闘機の迎撃とアトランタ級の熾烈な対空砲火もあって決定打を与えないまま壊滅してしまった。一応三神の艦爆は、無傷のヨークタウンに250㎏爆弾を叩き込みこの日2発目の直撃弾を得たが、命名はそれっきりで致命打には至らなかった。


井上に残ったのは箱になったの三隻の軽空母と数機の艦爆と艦攻、そして十数機の零戦であった。こうして第3次攻撃隊を出すのは無理になった(陸軍特殊船丙型の戦闘機は航続距離が短いためと海上での航法ができないため攻撃隊には使えなかった)。敵艦隊は一旦後退したものの日暮前に反転しMO攻略隊の輸送船団に直進した。

井上は制空権の有無が関係ない夜間に艦隊決戦を挑むつもりだとこれを解釈し、仕方なく第二艦隊を前に迎撃する布陣を取った。対する米艦隊は後衛に空母を置き前衛の戦艦の上空を守りながら前進した。


そして日が暮れ艦載機の運用ができなくなった頃合いに米艦隊は最大船速で第二艦隊に接近してきた。艦隊戦で井上に出番はないので指揮は近藤に任せていた。そして、旗艦金剛の電探に敵艦隊が写り、後に第2次珊瑚海夜戦と呼ばれる海戦が始まったのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「敵戦艦1番艦、距離50000を切りました」


第2艦隊旗艦戦艦金剛の艦橋に報告が届く。金剛型の射程は35000ほどであるが老骨に鞭うって改装で無理やり射程を延長しているので、精度的にまともに命中させるためには20000まで距離を詰める必要があった。


陣形は旗艦金剛を先頭に「霧島」「比叡」「榛名」が続いており、両脇には松型が二十四隻あまり展開していた。


敵艦隊は金剛の進行方向の右舷側である。第七戦隊、第十戦隊はより敵艦隊に近い方におり護衛の秋月型を連れて接近してくるであろう敵駆逐艦に睨みを効かしていた。つまり敵と反対の右舷側には駆逐艦しか展開していない。敵は戦艦二隻、重巡三隻、軽巡四隻、駆逐艦多数からなっており絶賛同航戦中であった。本来なら俺がMO作戦の指揮を取るはずなのにな。


井上は戦下手であって、海兵学校では2期下の後輩である。

本来なら近藤は連合艦隊司令長官に次ぐ立場なのだが航空主兵主義が海軍に大頭した結果、鉄砲屋の近藤は極めて立場が弱くなっていた。

近藤自身、開戦以来帝国海軍が挙げてきた戦果は航空機のおかげだと分かっていたがどうにもこうにも頭を入れ替えることはできなかった。

南方作戦の総司令として開戦時は指揮を取ったが直接戦闘を指揮するのは今回が初めてだった。本来なら第2艦隊の旗艦は重巡「愛宕」だが自ら指揮を取りたかったので金剛に変えた。


「観測機、発艦完了!」


報告はそう伝えられたが実際にはこれから砲撃戦をするので退避するということである。夜間では観測機を使おうにもそもそも観測自体が難しく、米軍が夜戦を挑んできたのは制空権の有無が関係ない夜間なら勝機があると考えたからであろう。敵との距離が徐々に縮まっていく。

その時だった。

水平線上に突如閃光が奔り、爆炎と共に轟音が遅れて伝わってきた。敵戦艦が発砲したのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る