第71話 艦載機不足

ヨークタウンにはヨークタウン所属の40機に加えて母艦を失ったホブカークスヒルとサラトガの攻撃隊と直掩機、30機が残っていた。


「だいぶ減ったな」


フレッチャーはヨークタウンの艦橋で帰還する機体を見てつぶやいた。攻撃隊はおよそ半数が、直掩機はそのほとんどが未帰還になっていた。帰還した機体も損傷が激しく、再び飛び立てないものが多く、それを引いた数がこの70機であった。


「敵はトカチクラスの軽空母2隻が残っていますが先に陸軍が損傷させた一艦が本隊と合流する動きを見せており復旧が終わった可能性が高いです」


従来の航空戦は何回も攻撃隊を放ち合うものだと思っていたんだがな。フレッチャーは思案した。


「ここで攻撃隊を放っても航空機を消耗するだけか」


敵の機動部隊の後方には輸送船団が控えておりそれらのニューギニア上陸を許したらこちらの負けだ。


「バックアップの第9群との合流は4時頃になりそうです」


参謀が言う。第9群の護衛空母は商船改造のロングアイランド級4隻であり飛行甲板が150mもないため航空機を運用するには少々難がある。ヨークタウンは他艦の航空機を積んでいて護衛空母の艦載機を運用することはできないし、被雷時に誘爆する可能性のあった爆弾や魚雷を投棄したため現状、一回の攻撃分しかできない量しか爆弾がない。航空機に爆弾を積んだままでは着艦できないので第9群の航空機を運用しようにも爆弾がないのではできないのだ。


「第9群と合流次第、攻撃隊を出す。それまでは敵艦隊の位置把握と艦隊防空に徹するように...」


煮えきらない思いをしながらフレッチャーはそう命令するのだった。



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一方のMO機動部隊も艦載機の不足に悩んでいた。


「これじゃ艦隊全体で60機しか使えないじゃないか!」


井上は艦載機の収容が完了した各艦の報告を聞いて怒鳴った。


「そう言われましても...」

白石が唸る。


「いや別に独り言だから...」


井上はしばし考える。輸送船団には護衛空母が2隻あるがそれは護衛用なので使えないし戦闘機ぐらいしか積んでない。まあ無理に艦載機を捻出すればできないこともないだろうが。そう考えていると矢野が肩をつついてきた。


「司令!、司令!、ああやっと反応した...。さっきからずっと呼びかけていたんですよ」


そう言う矢野の後ろには伝令の紙を持った兵が肩身狭そうに硬直して立っていた。


「ああ、すまない...。第十戦隊の三川からか。....なるほど」


井上は紙を見てぶつぶつ呟くと通信兵を呼んだ。


「輸送船団の陸軍船舶司令部第3護衛輸送船団司令の鈴木敬司少将に所属の陸軍特殊船丙型の協力を仰いでくれ」


MO攻略作戦の司令は井上であり一応命令的には陸軍に要請という形になるが階級的に鈴木に断ることはできない。今回のMO攻略部隊の輸送船団は輸送船16隻中8隻が陸軍特殊船丙型である。陸軍特殊船とは現代でいうドック型輸送揚陸艦でありそのうちの丙型は航空機運用能力がある強襲揚陸艦みたいなものである。


史実では丙型は「あきつ丸」「熊野丸」が建造されたが、海軍が航空主兵論に転換した結果、輸送船の護衛に空母を回したくなくなったので陸軍に自前で用意させようということになり、予算削減をしたい陸軍は建造する陸軍特殊船を全部丙型にして解決したのである。MO作戦は陸海軍の威信がかかっているので惜しみなく丙型が輸送船団に緊急配備されていた。



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(米第5群第二次攻撃隊)


ヨークタウン F4F 18機 TBD 24機 SBD 24機


ロングアイランド F4F 6機 TBD 8機 SBD 8機 


コディアック F4F 6機 TBD 8機 SBD 8機 


ウマニク F4F 6機 TBD 8機 SBD 8機 


セントローレンス F4F 6機 TBD 8機 SBD 8機 


計 艦戦42機 艦攻56機 艦爆56機



補足


第9群は合流時に第5群に統合された。


ロングアイランド級は史実ではロングアイランド一隻のみだが本世界線では史実よりも早く、そして多数建造されている。ロングアイランドは完成したC3商船を空母に改装したものだが、これはアメリカ海軍初の護衛空母である。ロングアイランドは史実では護衛空母の運用や建造にどれぐらいのメリットや効果があるのか調査するためにある意味試験艦として建造された。本世界線で同様の目的で建造されたが、より調査を早く進めるのと護衛空母を多数運用することを調査するため四隻建造された。

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