第68話 迎撃1
「敵編隊補足!数およそ70。方位220°、距離100海里(約200km)。」
筑後の艦橋後部に設置された二式四号電波探信儀三型は150kmという設計側の予想値を大きく超えた探知性能を示した。この電探は4月頃に搭載されたばかりのものである。
史実の電探とは違い主にドイツの電探をだいぶ参考にしているが、概ね史実の三式一号電波探信儀三型に近い性能と要目である。
「迎撃機発艦!」
直掩の零戦と新たに空母から発艦した零戦、計30機が敵編隊の方向に向かった。ちなめにこれは第4航空艦隊の戦闘機の残る全戦力であった。現在各空母には艦攻か艦爆8機しか残っておらず、第2次攻撃隊は今迎撃に出撃した戦闘機の一部を引き抜いて護衛する予定だった。
対潜警戒を担うのは金剛型搭載の零式水上観測機8機でこれは常に4機がローテーションで展開していた。ぶんぶんなるエンジン音が遠ざかっていく。
「第十戦隊の三川少将より艦載している1式水偵も加勢しても良いかと通信が来ていますが、どうしますか?」
副官の白石萬隆少将が通信兵から伝令を受け取って言う。
「水偵と艦戦ではまともな戦闘は出来んだろうし、まあ艦攻や艦爆の相手をするなら十分だろうから許可していいぞ」
井上は特に気にもせずに許可した。火薬カタパルトの射出音がした後、前方をゆく阿賀野型から水偵が横に打ち出させた。奇遇にも阿賀野型4隻と十勝型5隻が同時行動しており、同じ船体と機関からなっているため艦隊行動がしやすかった。
「阿賀野型、これからうじゃうじゃ見ることになるんでしょうねぇ」
矢野がぼやく。格納庫がある阿賀野型は砲撃しても水偵が損傷することが無いのである(最上型以前の重巡は後部の砲を発砲すると艦載してある水偵が爆風やらで損傷するという致命的な欠陥を抱えていた。利根型は別だが)。
そのため、なんやかんやあって改最上型重巡の建造は中止になり阿賀野型が本土の工廠で十勝型と一緒にバンバン起工されていると聞く。数は力であり、力は正義なのだ。
あっ、そしたらアメさんの方が正義になっちゃうな。そんなことを井上が考えていると、遂に迎撃にあがった零戦隊が敵攻撃隊の戦闘機と交戦し始めたようで煙を吐きながら海面に真っ逆さまに落ちていく機体や空中で爆発して四散した機体がみえた。はたして墜落したそれが敵か味方なのかは井上には分からないが、その交戦場所は徐々にこちらに近づいているのが分かった。
「対空戦闘用意!」
十勝型の両舷にある4基の10㎝連装高角砲が旋回し仰角を上げ射撃の用意を取る。
「阿賀野、能代、矢矧、酒匂発砲!」
最大射程3万m以上を誇る阿賀野型の主砲はどの艦よりも早く発砲した。阿賀野型が最上型と違うのは最初から速射砲搭載艦として設計されたため変えの砲身を積んでおり一応自艦で砲身の交換が可能なように設計されていたことだった。流石に砲身の交換は数時間はかかるがそれでも継続戦闘能力が高いのは事実だ。
まあ、房総型がいれば数十分でできるのだが。
阿賀野型が何斉射かしたころ、やっと一機が火を噴いて高度を下げ始めた。
やはりB17と違って小さい機体はその分被弾面積が小さいので墜としにくいようだ。空母目指して一直線に進んでいた敵編隊から一部が分離して阿賀野型の方に向かい始めた。
対空能力が高い防空艦を先に排除するつもりなのだろう。今まで黙っていた高角砲群も射程に入ったのか射撃を開始した。
今までの戦訓も踏まえて高角砲は個艦ごとに違った色の炸薬を使っているので空が色とりどりの爆発に埋まる。膨大な数の高角砲弾が炸裂するたびにまばらにも敵機は一機、また一機とその数を減らしていた。
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