第64話 水中からの強襲1


第5群の直下では数匹の狼達が全速力で5群に追いつき、攻撃の機会を伺っていた。敵駆逐艦のトゥーン、トゥーンというソナーの音が狭い艦内の外殻に反響して響き渡る。伊号第二百四潜水艦の艦橋では艦長の三郷が音を立てないようにしながら次官と話していた。


「ソナーの反応からして敵は駆逐艦10隻前後、空母は3隻です」


ちょうどその頃、魚雷室では機関長がレンチを落としかけて部下が床に落ちる数センチギリギリでキャッチしたところだった。

「危ないですよ、艦長に知られたらぶっ殺されますよ」

「大丈夫、大丈夫、あの鬼艦長は鈍感だから」


そのころ艦橋では


「ハックション!」

「風邪でもひいたんですか?」


次官が尋ねる。

「いや大丈夫だ。夜が明ける前に敵艦隊に魚雷を叩き込まなければ、他の艦はどうだ?」

「さあ、伊二百一型潜水艦の静粛性が良すぎるんで他艦のそれは聞こえないですね」


聴音手が答える。


「襲撃予定時刻まで十分か、」


三郷は腕時計を見ながら言う。MO機動部隊司令部(第4航空艦隊司令部)より発信された命令書では敵機動部隊への攻撃は5月5日の2時半とされていた。


「そろそろか。メインタンクブロー、潜望鏡深度に浮上」


同じ頃、計4隻の潜水艦は浮上を開始していた。





※補足

ソナーには大まかに2種類があり目標の音波を受けて目標の方向をおおまかに把握できるパッシブ・ソナーと自ら音波を発して目標から反射してきた時間を測り目標の正確な位置と距離を把握できるアクティブ・ソナーがある。基本的に潜水艦に搭載されているのはパッシブ・ソナーであり、水上艦はアクティブ・ソナーだ。だがアクティブ・ソナーは送受信機能があるのでパッシブ・ソナーとしても使える。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




嫌な予感がする。何か嫌な予感が。空母ホブカークスヒルの艦長、フレデリック・C・シャーマン大佐は何やら嫌な予感を感じていた。これはそう、前にレキシントンが撃沈される前に感じたことと似ている。フレデリックは以前、空母レキシントンの艦長を務めており、ハワイ近海で敵の潜水艦に一度乗艦を沈められていた。


「もう一度聞くがそれは聞き間違いではないのだな?」


フレデリックがさっきから嫌な予感がするのはレキシントンでも敵に襲撃される前に同じようなことがあったからだ。


「はい、俺は確かに聞いたんです!潜水艦の注水音を!」ソナーマンのその水兵の青年は真っすぐな目でこちらを見てきた。

「分かった。これから艦隊司令に報告する」


水兵はほっとした顔で持ち場に戻っていった。前回レキシントンが沈んだ時は異音が聞こえたという水兵を追い返してしまったが次は同じ失敗は繰り返さない。艦橋で立っているフレッチャー司令にフレデリックは話かけた。


「どうも潜水艦の音が聞こえたと部下が言うのですが、他艦では報告されていないようです。しかし、念のため対潜警戒を機を増やしてはどうでしょうか?」


「よかろう、警戒してなんぼだ。ジャップの潜水艦は静粛性が極めて優れているらしい。この機会だしNDRC(国防研究委員会)の試験兵器を使ってみるか」


フレッチャーが軽快に返したのでフレデリックは少し驚いた。


「試験兵器とは?誘導爆雷ですか?」


「いや誘導爆雷は機密事項だからそう口にするんじゃない。第一まだ研究段階だろ。いやな、2つあるんだが今飛んでいいる対潜哨戒機がどちらも搭載しているんだ、一応使用には艦隊司令の許可が必要になっているから今出すところだ」


そういうとフレッチャーは無線でなにやら伝え始めた。しかし、新兵器といい、なんか最近この手のものが多いなぁ。そう思うフレデリックであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る