第63話 第一夜戦3

「敵艦、序列が乱れているようです。電探には小型の艦が大型の艦に衝突したように見えました」


電探員の報告を聞いて余田はチャンスだと思った。これ以上敵に接近すると損害はかさむ一方だろう。ここまで接近する間にも更に秋月型1隻に松型一隻を失っていた。我々の目的はあくまで敵に対しての陽動だ。距離は7000ほどだったが余田は魚雷一斉発射命令を出した。


「1番魚雷発射管発射完了!」


水雷長から報告が入った数秒後には通信で各艦も魚雷発射を完了したことを伝えてきた。実は三百号型4隻も反転する際、魚雷を発射していたのだが敵艦隊の序列が乱れ進行位置が想定位置から大きく外れたためとそもそも4隻で12本しかなかったため命中はなかったようだ。


「次弾発射次第全速離脱、橘型は撤退を援護せよ!」


秋月型と松型の発射管は次発装填装置が付いており機力で1分もしないで装弾できた。だが魚雷は両型とも8本しか積んでいないのでここで発射したらもう後が無い。魚雷を発射するときは艦の進路を変えると未来予想位置に向けて設定してある魚雷の進路がずれてしまうので直進をするのだが敵弾の回避行動ができない発射時に被弾する艦が相次ぎ更に5隻が撃沈された。発射が完了し反転したときだった。突如敵重巡の舷側に水柱が立ち上がった。更に何隻もの敵艦に水柱が立ち上がる。


「第六艦隊か!」


今まで何をしていたのか急に潜水艦が攻撃を開始したのだ。更にその数分後、追い打ちをかけるように艦隊が発射した100本ほどの魚雷が敵艦隊に殺到した。九三式魚雷の700キロの弾頭の炸裂は一撃で重巡を撃沈するほどの威力を持っていた。


「命中2!敵重巡にです。2隻とも速力低下しています」


魚雷を無理をしてでも60ノットで広範囲に発射した余田の勘はあったた。列として進んでいた敵艦隊は落伍した艦やそのまま進んだ艦に関係なく横から最大被弾面積のまま被雷したのだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




下から突き上げるような衝撃の後、旗艦シカゴの艦橋を強烈な横揺れが襲った。キンケイドは思わず倒れてしまった副官の手を取った。


「ありがとうございます」


艦内の電気は非常用電源に切り替わっており薄暗い中、赤い警報ランプが点滅しながら灯っていた。慌ただしく乗組員達は走り回り、負傷した者の手当や各部署の状況を報告していた。やがて一つの報告が飛び込んだ。


「右舷に避雷!。か、艦尾が引きちぎられました!」


「機関室、応答なし!全滅と思われます!」

「艦尾からの浸水増加中!、隔壁の封鎖が追いついていません!」


艦長はそれらの報告を聞くとキンケイドの方に歩み寄った。


「司令官、本艦はもう駄目です。総員退艦命令がでます。司令も早く避難を」


艦橋の傾斜は激しく、立つのも難しいほどだった。続けて届いた報告では重巡のうちノーザンプトンとアストリアが魚雷を受けて沈没し、残る重巡や駆逐も敵艦隊の砲撃(駆逐艦の豆鉄砲だが数だけは馬鹿にならない)や敵潜水艦の攻撃で大なり小なり被害を受けていた。特に8隻のリヴァモア級の内5隻はもう影も形も無かった。僅かに浮かぶ救命ボートと生存者がその痕跡を残すばかりであった。


「わかった、...貴官も艦と運命を共にするような馬鹿な真似はしないで部下の安全を確認したら直ぐ退艦しなさい。真珠湾で多くの指揮官が居なくなった今は一人でも経験を積んだ艦長は貴重だ。では、頼むぞ」


「....了解しました」


キンケイド達は無事なノーザンプトンに旗艦を移し、残った駆逐艦は対潜警戒を行なった。だが、この時点でそれらの潜水艦は既に艦隊の下をくぐり抜けて本隊の3隻の空母から成る第5群に最大速力で接近していたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る