第62話 第一夜戦2

僚艦の夏風が撃沈された時、駆逐艦花月の艦長の加山は艦隊の全滅を覚悟したが、どうやらまぐれだったようだ。しかし艦影が大きい秋月型には砲火が集中しており、ときより艦橋に海水がかかるほど近い所に着弾することもあって気を緩められなかった。


「敵駆逐艦接近、数8、ベンソン級或いはリヴァモア級の駆逐艦です!」


ベンソン級駆逐艦の準同型艦のリヴァモア級駆逐艦は12.7㎝両用砲5門、5連装魚雷発射管2基を備えた米軍の最新鋭駆逐艦だ。秋月型は砲力に勝るが魚雷兵装では劣っている。艦隊型駆逐艦の朝潮型の半分の兵装しかない松型に至っては2隻でやっとリヴァモア級1隻分の戦闘力になる。


「砲戦用意。砲術!1番、2番砲塔射撃開始!」


今、日本側は縦に並ぶ米艦隊に対し横から突撃しているので丁字戦法で迎え撃たれているのである。そのため敵に指向できる砲は前方の砲だけなのだ。松型は前方に1門しか指向できないし、前方に4門指向できる秋月型は前方に2門しか指向できないリヴァモア級に唯一対抗できる存在と言っても良かった。

だが松型や橘型も数だけはあるので一応17隻17門投射できた。8隻のリヴァモア級は元より5隻の重巡も15㎞に近づいた時点で既に射程内だったのだが有効的に当てるにはそれなり近づいてからの方がよかったからだ。

3隻の秋月型は射撃を開始したが遂になかなか命中していなかった敵重巡の20㎝砲弾が命中し始め橘型1隻と松型1隻が粉砕されたのだが、花月の後方で起こったことであり加山には見えなかった。




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敵魚雷艇群トーピード・ボートス接近中!。数6、距離10000」


重巡部隊に突撃を開始したのは三百号型2等駆逐艦である。武装は7.7糎連装高角砲2基、51糎3連装魚雷発射管1基と前大戦時の水雷艦ほどしかないが海防艦程度の大きさで量産性に優れ40ノットも出る本型は船団護衛に最適でありいわゆる高速海防艦とも呼ばれ設計は鴻型水雷艇をベースに直線を多用しブロック工法や量産に対応したものだった。


「副砲はその敵艦に、主砲は引き続き敵軽巡を攻撃せよ」


キンケイドは即座に命じた。


「いいのですか、敵駆逐艦を近づけると厄介なことになりますよ」


副官がおどおどしながら言う。


「構わん、相手は護衛の駆逐艦で十分だ」


8隻のリヴァモア級駆逐艦は敵高速魚雷艇に向けて砲撃を開始した。5インチ砲弾はレーダーを元にした正確な照準射撃で次々命中していった。

まず、一番先頭を行く敵艦にぱっと爆炎が煌めき木っ端微塵になった。つづいてその次を行く艦もあっという間に砲弾が炸裂しまくり、鉄屑となって海面下に姿を消した。

残る4隻は踵を返して反転し、その速力に物を言わせてあっという間に去っていった。

しかしその間にも敵軽巡の砲撃で5番艦のケアニーが艦橋に直撃弾を受けて1,2番砲塔ごと巻き込んで爆発し戦闘不能になり、舵が壊れたのか同じ場所で旋回し始めた。

先頭を行く艦が急に横から突っ込んできたのでそれを避けた8番艦のメレディスがその先にいた重巡ノーザンプトンの艦首に突っ込む形となった。

自身の5倍以上ある質量の艦にぶつかったメレディスは艦首から艦橋直前にかけて大きくひしゃけて潰れた。やがて浸水が始まり水密隔壁ごと潰れていたメレディスは沈むことになる。

一方の艦首に追突されたノーザンプトンは1番砲塔のシリンダーが歪み正確な射撃が不可能になってしまった(他は艦長が衝撃でぶっ倒れて大怪我をしただけだった)。

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