第61話 第一夜戦1

「第54駆逐隊の松型5隻がそろそろ合流する頃です」


鈴木が真っ暗な水平線を見つめていると探照灯の灯りが5つひかり、発光信号で第54駆逐隊であることを伝えてきた。


「これより敵艦隊に突撃を開始する。目的はあくまで敵護衛艦を攪乱し潜水艦の空母攻撃を援助することだ」


丙部隊の位置は逆探を積んだ2式飛行艇が危険を侵しながら常時報告していた。既に何機もが撃墜されていたがそのおかげで第22航空戦隊は敵の位置を把握することが出居た。敵艦隊の方向に最大出力の27ノットで航行を開始してから半時間後、遂に秋月型の淡月の電探に敵艦と思わしき反応がうつった。余田は無線封止解除を命じると全艦に向けてこう訓令した。逆探があればもっと敵を遠くから探知できただろうがこの秋月型は就役を早めるために最低限の艤装しかされていなかったので、搭載されていなかった。今の造船事情はそれほど逼迫したいるのだ。


「敵は巡洋艦を持っているので恐らく敵の電探に我が方はかなり前から補足されていただろう。これからは強襲となる。敵に対して深追いはせずけっして接近戦を挑んではならない。以上」


第22航空戦隊は松型11隻、橘型6隻、秋月型4隻、三百号型6隻からなっており砲火力には特化しているものの魚雷の門数は全艦合わせても78門しかなくそもそも命中率が1%を超えたら良くできた方だ。その時、水平線上に突如灯りが灯った。


「敵艦発砲!」


報告とともに敵艦の発砲音が轟く。余田は水雷戦をすることを決意した。どのみち砲だけでは勝ち目はないのだ。


「水雷戦闘用意!、機関全速、魚雷発射は3000から5000で行う。各員に次ぐ、勝てないと分かったらすぐ逃げるぞ、いいな」

「は!」





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「敵艦隊接近してきます。軽巡4隻、駆逐艦20隻前後」


副官が報告する間にも3基の主砲塔からは8インチ砲弾が敵艦に向かって光の筋を作っていく。これは星弾で敵艦隊の上空で炸裂するとともにそこが昼間のように明るくなった。


「目標、敵一番艦、レーダー射撃開始」


敵艦隊との距離が25㎞を切ったところでトーマス・C・キンケイドは命令を下した。主砲の8インチ砲の射程は29㎞だが射程ギリギリでは命中率が落ちるため引き付けてから撃つのだ。第2群の重巡ミネアポリス、アストリア、ノーザンプトン、ポートランド、そしてキンケイドの乗る旗艦のシカゴが敵艦隊の先頭に立つ軽巡と思わしき艦(秋月型は大型なので軽巡と誤認された)に向かってレーダー照準射撃を開始する。5隻の重巡から放たれた45発の8インチ砲弾は敵艦の周りに次々に着弾し高い水柱を作り出す。


「夾叉確認!」


1斉射目で夾叉するとは、我ながらレーダー射撃の技術に感心していた時、その敵艦に赤い火柱が出現した。


「敵一番艦に命中確認!。敵、速力低下中、戦闘能力を損失したと思われます」


5隻の僅か1斉射で敵艦一隻を無力化できるとはさすがにキンケイドも考えてはいなかった。これ程の命中率なら1艦に5隻で集中攻撃するのは愚策だと考えたキンケイドは各艦が個別の目標を攻撃するよう命じた。だがこの命中がまぐれというよりも奇跡に近いものだったのをキンケイドは理解していなかった。各艦にレーダー照準を合わせるのに数分を費やし、更にそれぞれの艦が5斉射以上をしても命中は一向に無かった。やっと命中弾をだし敵艦2隻を撃沈した頃には敵艦隊は距離を詰めその間隔は15㎞を切っていた。

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